お話T

□平古場
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お昼休み、いつものように屋上へ向かう。

扉を開けて屋上へ出ると給水塔が立っている梯子を上る。

昨日は居たから今日はいないかもしれないな。

そんなことを思いながら顔だけを覗かせると見慣れた金髪が目に飛び込んできた。

あぁ、今日はいた。

梯子を上りきって寝転んで空を仰いでいる平古場に歩み寄る。
顔を覗き込むと目を瞑っていた。

どうやら寝ているようだ。

風に揺れる金髪が素直に綺麗だと思った。
しゃがみ込んで平古場の頭をそっと撫でる。

そういや私が平古場に初めて会ったのは中1の時だったかな?
その綺麗な金髪と顔立ち、『平古場凛』って名前で私は平古場のことをすっかり女だと勘違いした。

だから初めて声をかけたときに『凛ちゃん』って呼んだんだっけ。

あのときの平古場の怒りようったらなかった。
怒鳴り散らすわわめき散らすわ……。

思い出して一人クスリと笑う。
もう一度平古場の寝顔を見る。

今は閉じられているけど少し鋭いその目は女の子じゃない。

「そう言えば、声も低くなったな……」

2年の途中から声変わりして、あの時は吃驚したな……。

「背も、伸びたよなぁ……」

入学したての頃は私より少し大きいぐらいだったのに。

「顔立ちだって、少し変わった……」

綺麗なのは今でも変わらないけど、前みたいに『可愛い』なんて形容詞今の平古場には似合わない。

「もう、いなぐだなんて馬鹿に出来ないね」

性格だって外見だって、いつの間にか『男の人』になってしまった。

「いぎがだもんねぇ……。ちびらぁさん……」
「当たり前やっしぃ」

呟いた言葉に返事が返ってきたかと思ったらパッチリと平古場が目を開けた。
吃驚して尻餅をつく私に平古場は反動をつけて起き上がった。

「い…いつからっ?!」
「ふらぁかぃやーは。わんは人がいるときにはぜってぇ寝ないんばぁよ」

それは暗に最初から起きてました。と言っているように聞こえる。
口を開閉させる私に平古場はニンマリと笑みを浮かべると私にずり寄った。

「ぃやーは、でぇじ、うじらぁさんよ?」
「ひらこ……っ」

言って額に口付けた平古場に言葉が出なかった。


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