お話T

□ハロウィン企画
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ごった返す厨房でせっせせっせと重い鍋を運んでいた私はその場にいなければいけない人間がいないことにふと足を止めた。
「あの、サッチ隊長は……?」
「そーいや指示出した後どっか行っちまったなー」
近くに居たクルーにそう聞けば包丁の手を止めた彼はなんか用でもあったんだろ、と言うと調理の手を再開した。
それに小さく首を傾げていれば手ぇ動かせ手!と怒られ渋々自分の持ち場へと戻った。






粗方夕食の準備も終えてあとはメインディッシュが完成すれば完璧だと言う所で食堂の扉が勢いよく開け放たれた。

「Trick and Treat!!」

あんな扉の開け方をするのはエースぐらいだろうとそっちを見れば我らが隊長が変な格好でこれまた変な言葉を放った。
とても上機嫌に。
そう言ったサッチ隊長は呆ける私の目の前に来ると再びTrick and Treat!と満面の笑みを浮かべて手を差し出した。
「え?なんですかこの手……。って言うか今までどこほっつき歩いてたんですか」
このくそ忙しい時に、と小さく悪態をついたのにそんなこと気にも留めていないのかサッチ隊長は楽しそうに顔を綻ばせると八重歯の光るなんとも吸血鬼を思わせる顔を近づけた。
「何って!ほら、今日ハロウィンだろー?だからお・菓・子♪」
そう言ってふふふ、と笑ったサッチ隊長に、彼の手を見て彼を見やる。
いつものリーゼントを崩してオールバックにした彼はご丁寧に衣装まで揃えたようだ。
そう言って楽しげに笑みを浮かべるサッチ隊長に、私も、他の隊員も呆然とそんな自分の隊長を見やった。
呼ばれた名前に我に返れば再び差し出される手。
ほらほらお菓子!とまるで子供のように催促する彼に一つ溜息を吐きだして満面の笑みを浮かべその手をきつく握りしめた。
「バカなことやってる暇があるなら仕事しろこの能なしフランスパンっ!!!」






ガヤガヤと賑やかな食堂に、片付けも粗方終えて一息つく。
デザート!!とご飯をモリモリと食べていたエースが空いたお皿を差し出した。
それに先程作ったパンプキンパイを乗せてあげる。
満面の笑みを浮かべお礼を言ったエースにどういたしましてと返して食堂を見渡す。
あのあと他のクルーにもこっぴどく叱られた我らが隊長はそのあとは渋々業務へと戻ったのだけれど……。
さっきまでマルコ隊長達とご飯を食べていた彼の姿はどこにも見当たらなかった。
いつもなら片付けのチェックをしてから食堂を出て行く彼がそこにいないことに小さく首を傾げてマルコ隊長達の所へと向かう。
「あの、サッチ隊長どこ行ったんですか?」
切り分けたパンプキンパイを人数分テーブルの上に置いてそう聞けば新聞を読んでいたマルコ隊長が顔を上げた。
「アイツなら部屋に戻ったよぃ」
資料片付けるとか言ってたねぃ、と言ってパイにフォークを突き刺したマルコ隊長。
これまた珍しい言葉に明日は嵐か、と呟けば相席をしていたイゾウ隊長がクツリと喉を震わせた。
「酷ぇ言われようだな、アイツも」
そう言ってキセルをくゆらせた彼はありがとうよ、と言うとテーブルに置かれていたパイを手に取った。
そんな彼等に小さく会釈をして出来たてのパンプキンパイを手に食堂をあとにした。






「サッチたいちょー?入りますよー?」
扉をノックして中へ入れば机に向かってペンを走らせるサッチ隊長の姿。
かけた声に顔を上げたサッチ隊長はいつものコックコートに戻っていて髪型もいつものリーゼントに戻っていた。
珍しく本当に資料を仕上げている彼を見て思わず大丈夫ですか?と聞けば苦笑を洩らした彼がイスへと凭れかかった。
「今日中に書いとかねぇとマルコちゃんに怒られるかんなー」
疲れるー、と笑った彼にお疲れ様ですと声をかけて手にしていたパイを机の隅に置く。
「私お手製のパンプキンパイです。少し休憩します?」
「おっ♪お前が作ったデザート食うの久しぶりだなー!」
サンキュ、と笑みを零したサッチ隊長に、嬉しそうな彼を見てふふ、と笑えば手招きされた。
それに首を傾げて彼に近づけば引かれる手。

 −−−チュッ

軽いリップ音の後に離れて行った彼に、香った煙草の匂い。
触れた唇を押さえて彼から距離を取ればどこか楽しそうに肩を揺らしたサッチ隊長は机に置いてあったパイを手に取った。
「味わって食うよ」
「なっ……?!に、す……っ」
そう言ってウィンクをしたサッチ隊長に、真っ赤になった顔を隠すように顔を俯ければカタリとイスの引く音。
それに顔を上げれば目の前には微笑を浮かべたサッチ隊長がいた。
「何、って言っただろ?『Trick and Treat(悪戯とお菓子)』って♪」
そう言って笑った彼はもう一度私に口付をした。



たまには大胆に
      
2014.10.31 ハロウィン企画

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