お話T

□愛を語るより沢山のキスを
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 −−−ブー ブー ブー

不意に震えた携帯に溜息を吐こうとしていた私は肩をビクつかせる。
慌てて携帯を手に取り新着メールを確認する。
送信相手は砂原だった
やっとこの気まずい空気から解放される、と携帯を開いたら柾木に声をかけられた。
「な…、……っ?!!」
なに?と聞こうとして顔を上げた瞬間、触れた唇に
携帯が手から滑り落ちカツン、と地面に転がった
離れていく唇に慌てて立ち上がり柾木から逃げようと距離を取った私の手を柾木が掴んだ。
「なっ、なんなの?!さっきからっ……!!」
もうこっちの心臓は爆発寸前だ
グッと引き寄せられ再びベンチに引き戻された私は出来る限り柾木から距離を取る
そう言った私に柾木はただ黙って煙草をふかすだけで、掴まれた腕は離してくれそうになかった
もう嫌だっ、柾木が何考えてるか分かんないっ……!
「ン……」
離して、と言おうとしたら目の前に携帯が差し出された。
最近i Phoneに変えたと言う柾木の携帯
見せられた画面はメールボックスだった。
「上手くやれ、っつわれてもどうしたら良いかわかんねぇ……」
ポツリと零された言葉に柾木を見やりもう一度差し出された携帯画面を見やる。
表示されたメールは砂原から柾木に宛てたもの
メールの内容には
『二人っきりにしてやるから上手い事やれよ』
とかかれてあった。
ソレを見て
もう一度柾木を見る。
ポケットに仕舞われた携帯に、こっちを見た柾木から思わず視線をそらしてしまった。
つまり……柾木は私の事をそう言う風に見ていた、と言うことなんだろうか……
中学から交流のある私達は
いわば腐れ縁みたいなもので、悪友だ
一緒になって喧嘩をするし、たまには二人と喧嘩もした
だから、柾木にとって私は『ただの』喧嘩友達だと思ってた
掴まれた顎に、無理やり顔を上げさせられた私はもう一度近づいてきた柾木の顔に思わず待って、と声をあげてしまった。
不機嫌そうに寄せられた眉に、少しだけ離れた柾木の顔を見て
一つ深呼吸をする
「柾、木は……私の事、好き……なんだよね?」
「じゃなきゃこんなことしねぇ……」
確かめるように聞いた私に小さく舌打ちを零した柾木は黙って私を見つめた。
その真っ直ぐな視線にいつか言われた砂原の言葉を思い出す。
私の気持ちに気づいていて、陰ながら応援してくれていた砂原は、柾木の気持ちも知っていた、と言うことなんだろうか。
だからこの前、とっとと告白してさっさとくっついちまえ。と言ったんだろうか?
「順序が……おかしい」
思わずそう零した私に柾木が小さく眉をひそめた。
「んなこといちいち気にする性質かよ」
嫌なら殴ってでも抵抗しろよ、と顔を近づけた柾木に小さく苦笑を漏らす。
そっと触れた唇に好きだよ、と声に出した私を見て柾木が小さく笑みを浮かべた。
グシャリと頭を撫でつけて立ち上がった柾木は煙草を踏み消すと私へと手を差し出した。
その手を取って立ち上がる。
「どこ行きてぇ……?」
バイクのキーを手にそう聞いた柾木に景色のいいところ、と返して落ちた携帯を拾い上げる。
さっき受信した砂原からのメールを見て思わず苦笑を漏らした。
「砂原、何だって……?」
「ンー…?『上手く行ったかよ?』だって」
フフ、と笑った私に柾木は小さく息をつくと私の手を取り歩き出した。
私の歩調に合わせてゆったりと歩く柾木に嬉しくなって小さく笑みを零す
砂原へのメールを返した私は携帯をしまうと隣を歩く柾木を仰ぎ見た。
もう一度好きだよ、と言葉にした私にこちらを見やった柾木は返事の代わりにキスを落とした。




愛を語るより君に口付を


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