お話T

□愛を語るより沢山のキスを
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ゆっくりと離れていく柾木の顔に詰めていた息を吐きだす。
そのまま何事もなかったように再び携帯を構い始めた柾木にえ…?と声を漏らす。
あまりにも唐突だったソレに、未だに早鐘を打つ心臓を押さえてもう一度え…?と声を漏らした。
「柾、木……?」
震える声で名前を呼んだけど柾木からの返事はなかった。
不意に重なった唇にそっと柾木から視線を外す。
今までの会話の中で、柾木のなにをそうさせたのか
触れた唇が異様に熱くて
顔に熱が集中するのが嫌でも分かった
あれ……?今まで何話してたんだっけ?
多分そんな大したことじゃない
久しぶりに三人でご飯でも食べようぜって砂原からメールが来て
集合場所に来たら柾木しかいなくて
砂原は遅れてくるんだと、って柾木が言って
それから、二人でベンチに腰掛けて砂原が来るまで世間話程度の会話をしていただけだ
柾木の突然の行動に思考がついて行かなくてそっと柾木の横顔を盗み見た。
相変わらずの仏頂面で携帯を構うコイツはさっきの行動をどう思っているんだろう
バクバクと脈打つ心臓に小さく息を吐きだす
続く沈黙に耐えられなくなってちょっと席を外そうかと立ち上がったら腕を掴まれた。
ビックリして柾木を見下ろすとバチリと視線が合ってしまった。
慌てて顔を俯かせた私に柾木は小さく溜息を吐きだすと座れ、と私の腕を引く
それに小さく返事を返して再び柾木の隣に腰かけた。
再び落ちた沈黙に早く砂原が来ないかと辺りを見回す。
一向に来る気配のない砂原にもうとっくに集合時間は過ぎているはずなのに、と小さく溜息を吐きだして隣の柾木を盗み見る。
「…っ」
さっきのこと、と言いかけて口を閉じる。
きっと聞いても答えない。
もう聞く勇気さえない
少し時間が経ちすぎた、あの時聞けばもしかしたら何かしら答えが返ってきたかもしれないのに
煙草を取り出して煙をくゆらせる柾木に再び地面に視線を落とした。
続く沈黙が心臓に悪い。

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