お話V

□ヨモT
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綺麗な赤に彩られる人だったモノに、カメラのレンズを向けてカシャカシャとシャッターを下ろす。
所々喰い散らかされている体に、内臓が引きずり出されているお腹を見て犯人は女の喰種かな?と柔らかい部分ばかりが喰い荒らされているその男の人に、もう一度カシャリ、とシャッターを切ればオイ、と後ろから声をかけられた。
「何をしてる……」
「あ、四方君!」
かけられた声に構えていたカメラを降ろして後ろを振り返ればそこには無愛想な顔した四方君が立っていた。
薄暗い路地裏に居る私に、そんな私の足元に転がる死体を見て小さく眉を顰めた四方君は、もう一度私へと視線を戻すとまた、何をしている、とその声に批難の色を滲ませた。
「何って、仕事だよ仕事!」
「………まだ、そんなことをしているのか」
そう言って首から下げていたカメラを掲げてみせれば、ますます四方君の眉間に皺が増えた。
呆れたような、どこか複雑そうな目で私を見る四方君に、ルポライターは命がけなんだよ、と笑えばさっさと辞めたらどうだ。なんて厳しいお言葉が返ってきた。
それでも私にとってこれは天職のようなものだからえー、ヤだなぁ。なんて返してカシャリ、とそんな四方君を写真に収めればますますその眉間に皺を増やした四方君にグイッと腕を引かれ大通りに連れ出されてしまった。
「警察に、連絡はしたのか……?」
「したした。多分あと5分もしないうちに来るんじゃないかな?」
グイグイと腕を引っ張る四方君に、まるで連行されるようにその後ろをついていけば聞こえてくるサイレンの音。
大通りを通過していく救急車とパトカーに、丁度良いタイミングで四方君が来てくれたな、なんて思いながら前を歩く四方君を見上げれば、やっぱりその眉間には皺が刻まれていた。
「怒ってる……?」
そうかけた声にも私をチラッと見ただけでなにも返さない四方君は、きっと何を言っても聞こうとしない私に呆れているんだろう。
言葉を返す代わりにフゥ…、と小さく吐き出された鼻息は存分に今の四方君の心情を物語っていて、未だに私の腕を引いて前を歩く四方君の横顔をチラリ、と盗み見て首元のカメラへと視線を落とす。
「大好きなんだよ、写真を撮るの。それがお金になれば一石二鳥だし、自分自身で決めた仕事だから危なくても続けたいんだ。死んだら死んだで、まぁそれは自業自得かな、って」
そう苦笑を漏らしてカメラをソッと撫でれば上から無言の視線が突き刺さる。
ソレに顔を上げて四方君を見ればさっきの不機嫌そうな顔はどこかに消えて、ひどく、色のない顔をした彼が私を見下ろしていた。
「命を……粗末にするな」
「あー……ウン。十分、気を付けてはいるよ」
そう言ってまた正面へと視線を戻した四方君に、君が言うんだね。と言う言葉をグッと呑み込んで苦笑を返す。
痛まない程度に掴まれた手に、ソコから伝わるのは温かい四方君の体温で、安全な場所へと私を連れ出そうとするようただひたすらに前を歩く彼の背を見ていると、なんだかソレがひどく滑稽に思えて笑みが零れてしまう。
気付いていないのかな……?君からはこんなにも『鉄』の匂いがしてるのに……
さっきまで嗅いでいたあの『人』特有の鉄臭さが漂う四方君の体に、それでも人間()のことを気にかけてくれる目の前の喰種(四方君)がどうしようもなく愛しく思えてしまって、未だ真実は告げぬまま。
出来れば気付かないで。私が貴方の正体を知っていることを。
出来れば気付かないで。人間()喰種(貴方)を愛していることを。
黙々と前を歩く四方君は相も変わらず無愛想で、そんな四方君の横顔を見てトッと歩調を早め四方君の隣へと並べば何だ、と言うように向けられた視線。
「お腹空いちゃった。ご飯食べに行かない?」
「…………持ち合わせがない」
「じゃぁ私が奢ってあげるよ!良いネタ出来たし収入期待できそうだし!」
「………近場で済ませろ」
「わぁい!じゃぁこの先のカフェにしよう!オムライスが美味しいんだよ!」
「相変わらず好きだな、ソレ」
飽きるぞ、とかけられた声はひどく呆れていて、はしゃぐ私を見下ろす四方君はやっぱりどこか呆れた顔をしているのに、少しだけ……楽しそうに笑っていた。
本当は、人間の食べ物なんて吐くほど不味いはずなのに、誘えばこうやってご飯だって行ってくれるのは、自分が喰種だってバレないように……?
それとも、少しは私と一緒に居る事が『楽しい』って思ってくれているんだろうか?あぁ、自惚れてしまいそう。
たとえば今の君が偽りだったとしても、正体がバレるその時まで私は何も知らないフリをしていてあげよう。
願わくば、死が間近に迫った時、目の前に居るのが貴方なら、きっとそれほど幸せなことはないのだから。


道化師とロンドを


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