お話V

□Z
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長編夢主

寄せては返す波に足首まで海水に浸かり沈みゆく太陽をなんとはなしに眺める。
遠くの方に見えるモビーディック号に、そこから微かに聞こえる喧騒を聞きながらもう少し向こうまで行ってみようかな、と止めていた足を動かす。
少しだけ冷たい海水に、ふと、泳ぎたいなぁ、なんて思ってしまって苦笑が漏れた。
泳げた頃は何時でも入れるから、と特に入りたいなんて思いもしなかったくせに、カナヅチになったら海が恋しくなるなんてまるでない物ねだりをしている子供のようだ。
あぁ、でも今度浮き輪を装備して海に入ってみようかな、なんて思っていれば不意に誰かに手を掴まれた。
「何処まで行く気だよぃ」
「マルコさん」
グッと引かれた手に足を止めて後ろを振り返ればそこにはマルコさんが立っていて、どこか眉を顰め私を見下ろすマルコさんにどうしたんだろう?と首を傾げてしまった。
「何度呼んでも気づかねぇから、心配になってねぃ」
「え?す、すいませんっ!!」
どうしたよぃ?とかけられた声にまさか呼ばれているとは思わなくて慌ててそんなマルコさんに謝れば、ゆるり、と頭を撫でたマルコさんがやっぱりどこか心配そうに私を見ていた。
いつの間にかかなり遠くまで来ていたのか、さっきまで見えていたモビーディック号も見えなくなっていて申し訳なかったな、と思いながらそんなマルコさんを見上げヘラリ、と笑みを浮かべてみせる。
「すいません、戻りましょうか!………マルコさん?」
そう言って歩き出そうとすれば、そんな私の手を掴んだマルコさんにその場に引きとめられていた。
グッと引かれた手に、どこか眉を顰め私を見下ろすマルコさんを見上げ小首を傾げれば、そんな私を見やったマルコさんが小さく溜息を吐きだした。
「さっき、オヤジと話してたんだがねぃ……。暫くはお前さんを戦いには出さねぇことにしたよぃ」
「えっ……?な、何言ってるんですか?」
それだけ言って歩き出そうとしたマルコさんに今度は私がそんな彼の手を掴みその場に引き留めていた。
戦いには出さないって……どういうことなんだろう……?
此れと言ってマルコさんや皆に迷惑をかけた覚えもないはずなのに……
掴んだ手に、歩みを止めて私を振り返ったマルコさんに、どうしてですか?と眉を寄せればそんな私を見やったマルコさんがまた、その眉間に皺を寄せてしまった。
「これ以上、お前ぇの懸賞金が上がるのは避けてぇんだよぃ」
女で3億越えだ、と苦々しく声を漏らしたマルコさんに、今朝ニュースクーが運んできた私の新しい手配書を思い出す。
また少しだけ上がった懸賞金に、皆がそのことを喜んでくれていたのを思い出して、悪いことじゃないはずなのに…、と抗議の視線をマルコさんへと向ければ、そんな私を見たマルコさんが溜息を吐きだすと私の手をギュッと握りしめた。
「額が上がればその分危険に晒されるんだよぃ。敵船や海軍だって真っ先にお前ぇさんを狙ってくんだ、万が一にでもお前ぇが怪我なんかしたらと思うとねぃ……気が気じゃねぇんだよぃ」
分かってくれ、と撫でられた手の甲に、困ったように眉尻を下げるマルコさんを見上げ嫌です。と首を振ればまたマルコさんのその眉間に皺が寄ってしまった。
だってそんなのおかしいじゃないか。
私は『海賊』なんだから危険な目に遭うのだってマルコさん達も重々承知しているはずなのに
「聞きわけねぇこと言うんじゃねぇよぃ」
「聞きわけなくたって良いです。私は一番隊の副隊長ですよ?副隊長が戦いに出ないなんておかしいじゃないですか。それに、私を『副隊長』に任命したのはマルコさんでしょ?私、マルコさんに頼ってもらえてるんだって凄く嬉しかったのに」
そんなのあんまりです!と声を上げればそんな私を見やったマルコさんがますますその眉間に皺を寄せると、呆れたように大きな溜息を吐きだしてしまった。
「俺もオヤジもお前ぇの身を心配して言ってんだぃ」
「そんなの分かってますよ。でも、もし私が危険な目にあったとしてもその時はマルコさんが助けに来てくれるんでしょ?」
咎めるような視線を向けてくるマルコさんにそう言ってふふ、と笑みを浮かべてみせれば、そんな私を見やったマルコさんがキョトリ、と目を瞬かせると参った、とでもいうように破顔した。
「そんな当たり前ぇのことを聞くんじゃねぇよぃ」
何処に居ようと必ず駆けつけてやるよぃ、と笑ったマルコさんに、だから大丈夫ですよ。と笑えばもうこれ以上は何を言っても聞かないだろう、とそんな私を見て小さく溜息を吐きだしたマルコさんがクシャリ、とそんな私の頭を撫でつけた。
「さて、宴の準備も出来てるだろうし戻るかねぃ」
「はい!」
そう言って笑ったマルコさんに頷いて歩き出そうとすれば再び手を引かれその場に引きとめられる。
それにどうしたんだろう、とマルコさんを振り返れば顔にかかった影。
チュッと音を立てて離れていったマルコさんの顔に、どこか妖艶な笑みを浮かべたマルコさんは惚ける私の手を引くと浜辺を歩きだしたのだった。


5.海だけが見ていた
    お題サイト『確かに恋だった』様より


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