お話V

□W
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単体夢主

チラチラと粉雪が舞う空に、寒いなぁ…なんて小さくぼやいて携帯片手に帰り道を歩いていれば後ろから声をかけられた。
それに誰だ?と歩みを止めて後ろを振り返れば、そこには童守病院一の名外科医が立っていた。
「歩きスマホとは感心しませんね」
「約3カ月ぶりに会う友人にかける言葉がソレですか」
そう言って溜息つきつつ私の所までやってきた玉藻さんに、お久しぶりとかないんですか?と苦笑を漏らせば挨拶の代わりにスッと紙袋が差し出された。
「学会で九州まで行っていたのでソレのお土産です」
「わぁ!さすが玉藻さん!」
貴女こういうの好きでしょう?と渡されたのは熊本名物『いきなり団子』だった。
一人で食べるにしてはいささか量の多いような気もするそれに、丁度良い茶葉買ったんですよ〜♪と声を弾ませればでは貴女の家に行きましょうか、なんて……ホントこの人相変わらずだな……。
家主が了承もしていないのにさっさと家の方へと歩き出してしまった玉藻さんに、甘いの嫌いじゃなかったですか?とそんな玉藻さんのあとを追いかければ、チラ、と私を見やった玉藻さんがふと、その歩みを止めた。
「危ないですよ」
「へ……?う、わぁっ?!!」
ソコ、と私の前を指差した玉藻さんになにが?と聞こうとした私は次の瞬間ツルリと滑った右足にコントよろしく天を仰いでいた。
「まったく……注意力が足りませんね」
「ぉ、おぉぉ……ありがとう玉藻っち……」
コケる、と思った瞬間掴まれた腕に、グッとその体を支えてくれた玉藻さんはそう声を漏らした私にそれはやめろ、とひどく呆れたように溜息を吐きだしてくれた。
間一髪転倒をまぬがれたことにビックリしたぁ…、と体勢を立て直してホッと胸を撫で下ろせばそんな私の手を引いてまた玉藻さんが歩き始める。
「だいたい貴女は日ごろから抜けているんです。雪が降っている時はなおのこと周りに注意すべきでしょう」
「返す言葉もございません……」
そう言って鼻息をついた玉藻さんに、抜けてるって酷いな、とか思ったけど実際昨日も階段から転げ落ちたから何も言い返せなかった。
所々凍っている道に、これは歩きスマホなんかしてたら危ないな、と今更ながらなことを思いながら繋がれる手へと視線を落とす。
きっと無意識なんだろう手を繋いで歩く玉藻さんに、触れている手の平から伝わるその温もりにあぁ、この人って温かかったんだな、なんてそんな事を思ってしまった。
「ほらソコ、凍ってますよ」
「はぁい!」
そう言ってグッと引かれた手に、ピョン、と氷を跳び越えれば危ない、とたしなめられてしまった。
小さく眉を顰め非難めいた視線を寄越す玉藻さんに、コケたら道連れです、と繋がれた手を振ればますますその眉間に皺を寄せた玉藻さん。
そんな私を見て呆れたように鼻息をつき正面へと顔を戻してしまった玉藻さんに、それでも離れない手を見てひっそりと笑みを零した。


7.きみの温かさを知る
       お題サイト『確かに恋だった』様より


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