お話V

□V
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『愛謳』夢主

不意に呼ばれたその名前に後ろを振り返ればそこには病院帰りなんだろう、ロングコートを羽織った玉藻さんが立っていた。
「今から帰りですか?」
「そうですよー、玉藻さんも今仕事が終わったんですか?」
そう言って私の元までやってきた玉藻さんに、そんな彼と並んで再び家路を歩き出す。
そうかけた声に救急で呼び出されたんですよ、とどこか少しだけ疲れた様にそう言った玉藻さんにお疲れ様です。と言葉を返せばその口元に笑みを浮かべた玉藻さんがありがとうございます、と言葉を返してくれる。
何気ない彼とのそんなやりとり一つにも心が温かくなってふふ、と笑っていれば不思議そうに私を見下ろした玉藻さん。
そんな彼に何でもないですよ、と小さく首を振ればそうですか?なんて小首を傾げた彼がソッと私の手を取った。
「あぁ、やっぱり」
冷たいですね、なんて私の右手をギュッと握りった玉藻さんは苦笑を浮かべていて
ソレに冷え症ですからねー。と返して繋がれた手をギュッと握り返す。
狐妖怪だからなのか、はたまた元々玉藻さんの体温が高いからなのかは分からないけれどポカポカと暖かい手にソッとそんな彼に身を寄せればキョトリ、と目を瞬かせた玉藻さんがどこか楽しげに喉を震わせた。
「帰ったら、暖かいものでも食べましょうか」
「じゃぁ鍋物でも作りましょうか、あぁ、でもそれよりも部屋を暖めなきゃですね」
玉藻さんまで冷えちゃう、と徐々に彼の手の熱を奪っていく私の手に、本格的にこの冷え症もなんとかしなければな、と思っていれば構いませんよ、と笑った彼が繋いでいたその手をロングコートのポケットへとしまい込んだ。
「こうして、貴女と手を繋ぐ良い口実ができる」
そう言ってまた少しだけ近くなった距離に、笑みを浮かべる玉藻さんを見やり熱の籠った顔を見られるのが恥ずかしく顔を俯けさせ暖かいですね、とそんな彼に小さく言葉を返した。



冷たい手でもいいよ
       お題サイト『確かに恋だった』様より


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