お話V

□Y
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長編夢主

『やめろサッチ!!それは俺の宝物だって言ってんだろ……!!』
『残飯のどこが宝物だっつーの!なんだよこの骨は!』
『ソレは空島行った時に食った骨付き肉の残りだよ!すんげぇ美味かったんだ!』
『ギャー!!カビ生えてんじゃねぇかっ!!こんなもん取っとくんじゃねぇよ!!』

やめろ捨てるな!!いや捨てる!!と遠くの方から聞こえてくるエース君とサッチさんの攻防に、あっちはまだまだ時間がかかりそうだなぁ、と思いながらヨイショ、といらない物を詰め込んだ段ボールの箱を部屋の隅へと置く。
今年もあと残り数カ月となったカレンダーに、朝の食堂で『大掃除をするよぃ』と急にそう言ったマルコさんの号令のもと、各部屋で今白ひげ海賊団総出の『大掃除』が始まっていた。
まだ12月にもなっていないのにやたらと早い大掃除だな、とは思ったけれどこのモビーディック号の大きさを考えれば今から取りかからなければ全部屋の掃除を年末までに終了させるのは無理だろうな、と二つ目の空箱を組み立てる。
エース君の部屋に比べれば格段に物の少ない自分の部屋に、けれどもこうして大掃除をしてみると案外色んなものが出てきたりする。
初めて上陸した島で拾った貝殻や、マルコさんに買ってもらったアクセサリーとか、思い出がたくさん詰まったものはどうしても捨てるに捨てられなくて再び『宝箱』の中へと戻るのだ。
あぁ、コレはイゾウさんに貰った押し花で、コッチはハルタさんが買ってくれたバレッタだ、とドレッサーの中から出てくる宝物に、コレも大事アレも大事、とソレ等を『要る物』の箱に入れていけばあっという間にその箱は一杯になってしまった。
「う〜ん……片付かない……」
一向に物の減らない部屋に、けれどもどれも捨てるには惜しいものばかりでまた後でジョズさん辺りに宝箱の余りがないか聞いてみよう、と今度は作業机の整理を始める。
必要な報告書やたまにエース君が置いていく何かの落書きをファイルにしまいながら今度は引き出しの中を整理しようと引き出しの中身をゴッソリと取り出せばヒラリ、と手帳の間から小さな紙が落ちてきた。
ソレになんだろう?と長方形のソレを手に取ればそこには見慣れた人の字で英文が書かれてあった。
「わぁっ!!懐かしい!」

『Look up tha sky when you get lonely.the sky is already connected to I'm sure.』

そう書かれた英文は、マルコさんが私の世界に居た頃に栞代わりに使っていたものだった。
そう言えばこちらの世界に来る前にソレを鞄の中に入れて旅行に出たんだっけ……
あの時はまさかあのままこちらの世界に来るとは思ってもいなかったからホント世の中不思議なことだらけだなぁ、なんて思いながら懐かしいその栞にふふふ、と笑みを零していればコンコン、と扉がノックされた。
「あぁ、良かった。居たねぃ」
「どうしたんですか?マルコさん」
どうぞ、と言えば開かれた扉の向こうからマルコさんが顔を覗かせた。
部屋の中に居る私を見て、その顔に柔和な笑みを浮かべたマルコさんはそのまま部屋の中へと入って来るとグルリ、と周囲を見回した。
「結構物が溜まったねぃ」
「皆思い入れのあるものばかりで、捨てられなくて」
そう言って露天商となっている部屋を見てハハ、と楽しげに笑ったマルコさんに同じように笑みを浮かべればそんな私へと視線を落したマルコさんがふと、その口元に弧を描いた。
「部屋を整理してたらねぃ、懐かしいモンが出てきたよぃ」
そう言ってポケットに入れていた物を手の平に転がしたマルコさんに、黄色い小鳥のキーホルダーが付いたその鍵を見てあ…、と声が漏れた。
それにそんな私の反応を見たマルコさんがまた楽しげに笑みを浮かべたのを見て、パチクリ、と目を瞬かせてしまった。
「コッチの世界に戻って来る時にお前さんの部屋から持ってきちまってねぃ。なくさねぇようにって引き出しの奥にしまってて、忘れてたんだよぃ」
「ビックリしました……。てっきり捨てたものだとばかり思ってたから」
そう言ってゆらゆらとその鍵を揺らして見せたマルコさんにそう言葉を返せばパチリ、と目を瞬かせたマルコさんがどこか困ったように笑みを浮かべると手にしていた鍵へと視線を落した。
「俺がお前さんの世界に居たっていう証だからねぃ。コレを見てると、アレは夢なんかじゃなかったんだって、思えたんだよぃ」
そう言って苦笑を浮かべたマルコさんは、私へと視線を戻すと俺の一番の宝物だよぃ、と至極優しげな笑みを浮かべてくれた。
ソレが嬉しくてありがとうございます、と言葉を返せばゆるり、とマルコさんに頭を撫でられた。
柔和な笑みを浮かべるマルコさんを見て、そういえば、と手にしていた栞をマルコさんの眼前に掲げて見せればキョトリと目を瞬かせたマルコさんが不思議そうに首を傾げてくれた。
「それは、なんだぃ?」
「マルコさんが向こうの世界で使ってた栞です」
そう言ってふふ、と笑みを零せば栞…?と小さく声を漏らしたマルコさんがもう一度その栞に視線を落すと、そこに書かれてある英文を見てあぁ…、とやっとソレの存在を思い出したように声を上げた。
「驚いたねぃ……まさか、ソレをお前さんが持ってるとは思わなかったよぃ」
「マルコさんが、唯一あの世界に残していってくれた物ですから」
そう言って私の一番の宝物です、とその栞を胸に抱けば呆けた様に目を瞬かせていたマルコさんがふと、その口元に笑みを浮かべるとありがとうよぃ、とゆるりと頭を撫でてくれた。
「さて、もう少し片付けをしたら夕飯にしようかねぃ」
「はい!」
そう言って手伝うよぃ、と足元に置いてあった段ボールを持ち上げたマルコさんにありがとうございます、と言葉を返した私は手にしていた栞を無くさないように、と航海日誌に挟み宝箱の中へとしまった。


『思い出』と『宝物』


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