お話V

□7.大丈夫、ポッキーなら用意してあります
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「あ、あの……マジでやるの?」
「やりますよ。そのために好きでもない菓子を買ってきたんですから」
だったら何故こんなに大量に買ってくるんですか……?
ふた箱……いや、ひと箱で十分か。やるにしてもひと箱買えば十分だったじゃないか、とどこかウキウキした表情でフランのパッケージを開けて行く玉藻さんにハァ…、とそれはもうげんなりとした溜息しか出てこなかった。
まさかこの歳になって『ポッキーゲーム』なんてやるとは思わなかった。
歴代彼氏ともやったことのなかったこのゲームを、よもや齢400歳を過ぎてる目の前の妖狐様とやるはめになるとは……。
どうにかして逃げられないかなぁ、とか思っていれば器用に片手で袋を開けた玉藻さんがフランを一本口にくわえハイ、と楽しげにソレを私へと差し出した。
ニコニコと、それはもうホント楽しそうにニコニコと私がくわえるのを待つ玉藻さんに、こうなればさっさと終わらせてしまおう!!とパクリ!と反対側に齧りつく。
あ、美味しい……
普通に美味しいフランに、サクサクと食を進めて行っていた私は、一口も食べ進めず待ちの体制の玉藻さんを見て………
ポキリ!!と途中でフランをへし折った。
「あっ!何故折るんですか?!」
「ん、ぐ……だったら聞きますが何がしたいんですか玉藻さん?!」
ちょっとは食べろ!!と手持ちのクッキー部分しか食べない玉藻さんをビシリと指差せばキョトリと目を瞬かせた玉藻さんが柔和な笑みを浮かべた。
「貴女が恥ずかしがりながらも食べ進める姿がとても可愛らしくて」
迫られているようでそそりますね、なんて………ホント嬉しそうに言うなこの人……
ほら、もう一回!とまたフランを口にくわえた玉藻さんに、けどこの人絶対手持ち部分しか口にくわえないの!!向けられたフランを口にくわえ同じように待ちの体制に入る。
今度は玉藻さんが食べるまで絶対食べてやるもんか!とか思ったけど私のくわえてる方チョコ部分だから少しずつ溶けてくるし、しかもこの状態ジッと見つめ合う形だから想像以上に恥ずかしい……!!
もうダメ!!耐えられない!!と先端だけ齧って顔を離そうと動けばあの玉藻さんがサクサクサクッ!と一気にフランを食べ進めたからビックリした。
一気に近づいた距離に慌てて顔を離そうとすればガッシリと抑えられる後頭部。
「ふっ?!んっ……玉、んっん………っ」
そのまま深く口付けられて呼吸するタイミングを逃せば小さな隙間から玉藻さんの舌が中へと押し入ってきた。
「ゃっ……んっふっ……んん……」
くちゅ、と音を立てた口内に、咄嗟に舌を引けば上あごを玉藻さんの舌に撫でられてゾクリと背中に刺激が走る。
堪らず握りしめた玉藻さんの服に、何度も角度をかけてキスを落とす玉藻さんに弱弱しくその胸を叩けばやっと玉藻さんが手を離してくれた。
「っ、はぁっはぁっはぁっ……!!な、なにすっ……?!!」
つぅっと糸を引いた唾液に、思わず口元を手の甲で拭えば口についていたチョコをペロリと舐め取った玉藻さんがひどく妖艶な笑みを浮かべた。
「すいません、我慢できなくて」
そう言って甘いですね、と笑ってまた軽いキスを落とした玉藻さんに言葉を返せないでいると次はどれにしましょうか、なんて新しい箱を手に取るもんだから慌ててストップの声を上げていた。
「何です?まだ二つしかやっていませんよ?」
ほら、まだこんなにあるんですから、とテーブルの上に山と積まれたポッキーを見やった玉藻さんに
え?本気でコレ全部やるつもり?!!
「ちょ、待、って……ホント、ごめんなさい。ギブアップ……」
もう無理、と引け越しになればこれからが楽しいんじゃないですか、なんてその笑みを深め腰を引き寄せた玉藻さん。
コレが良いですかね、こっちも美味しそうですね、なんて楽しげに箱を選ぶ玉藻さんだったけどコッチはホントさっきので頭がいっぱいいっぱいなんだって……。
「ホ、ホント……も、無理……ちょっと、私には、ハードル高すぎた……」
もぅ勘弁してください、と消え入りそうな声で懇願すればキョトリと目を瞬かせた玉藻さんがふわり、と笑みを浮かべた。
「仕方ないですね、まったく。たったコレだけでギブアップだなんて、本当に……可愛らしい人だ」
きっと真っ赤になっているんだろう私を見てそう言った玉藻さんにギュッと抱きしめられる。
フワリと香った匂いは私と同じシャンプーの香りで、そんな玉藻さんの肩に顔を埋めギュッとその服を握りしめる。
あぁ、ダメだ……暫くこの心臓のバクバクは収まりそうにない……。


甘い甘い11月11日


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