お話V

□U
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「天気予報とは時に人の期待をこうも裏切るんですね」
ザァザァと降りしきる雨に、小さく舌打ちを零せば何やらガサゴソとやっていたサッチが苦笑交じりに縁側へとやってきた。
「まぁ降水確率10%でこの土砂降りだからなー」
アメダスもこの暑さにやられたか?と笑ったサッチは私の隣に腰かけると同じように空を見上げた。
そんなサッチを見て、もう一度空を見上げて大きく溜息を吐きだす。
やっと久しぶりに二人で出掛けられる、と浮き浮きしていればこの大雨だ。
しかも何でよりによって出掛ける直前で降りだすかな?!
折角のオニューなのに、と零してついさっき着付け終わった浴衣へと視線を落とす。
わざわざこの日のために、とイゾウに浴衣選びを付き合わせてまで買ってきたと言うのにこの仕打ちはあんまりじゃないだろうか神様!!
「確か去年も雨で中止だったじゃん……」
「そう落ち込むなって!また来週辺りにあっただろ?」
花火大会、と言ったサッチに顔をあげてサッチをジトリと見やる。
「だって……サッチ来週も再来週も仕事じゃん……」
そう言ってこれ見よがしに溜息を吐きだせばあ〜、を声を漏らしたサッチはどこか申し訳なさそうに頭をかいた。
別にサッチが悪いわけじゃない
今日だって本当なら仕事のはずだったのを他の人に代わってもらってまで休みを取ってもらったんだ。
どこか困ったように笑うサッチに、ゴメン、と謝れば軽く頭を撫でられた。
「サッチさん的には君の可愛い浴衣姿見れただけでも十分満足だぜー?」
そう言ってそれはもう幸せそうにンフフ♪と笑うものだから怒る気も呆れる気も失せてしまった。
そんなサッチにありがとう、と返せばおう!と笑ったサッチがあぁ、と思い出したように側に置いていた袋を手に取った。
「夜空に上がる大きな花火は見れねぇけど、花火ならここでもできるぜ!」
そう言って袋の中から手持ち花火のセットを取り出したサッチ。
沢山の種類が入っているそれに、どうしたの?と聞けば新年会のビンゴの景品、と笑ったサッチはライターとバケツを取りに家の中へと入って行った。
そんなサッチの背を見送って色とりどりの手持ち花火へと視線を落とす。
色が変わる奴から定番の線香花火まであるソレに、懐かしいななんて思っていれば縁側へと戻ってきたサッチがひどく楽しげに花火を一本手に取った。
「んじゃ、ま!二人だけの花火大会といこうじゃねぇの!」





「ちょっとサッチ!一気に4本はやりすぎだって!!」
「えー、これぐれぇしねぇと盛り上がらねぇってんだよ!」
「ちょ、煙たっ!煙こっちくる!」
「ハハハッ、お約束お約束!お!ネズミ花火もあるじゃねぇか!」
「ワァ、懐かしい!昔よくコレで男の子追いかけまわしてたなー」
「あー、うん。君はヤラれるよりヤル側っぽいね」





なんだかんだ言いながらあっという間になくなった手持ち花火に、残った線香花火を一本づつ手に取る。
「私さー、花火の中では線香花火が一番好き」
パチパチと音を立てて小さな花を咲かせるソレに、サッチと肩をくっつけて二人で線香花火を眺める。
そう言った私にチラッと私を見やったサッチはぽいね、と言うと小さく笑って花火へと視線を戻した。
「静かで華やかさはないけどさ、綺麗なんだよねー」
「俺も好きだぜー。お前みたいで」
そう言ってハハ、と笑ったサッチには?!と思わず声を上げてサッチを見ればその振動でポトリと火種が落ちてしまった。
ソレにあぁ、と声を漏らしてジトリとサッチを見やればクツクツと笑ったサッチは自分の線香花火へと火をつけた。
「知ってるー?お前って俺と居る時以外殆ど喋らねぇの。良くて一言二言。初めて会ったとき物静かな子だなぁって。けど、そんなところが可愛いなぁって思っちまったんだよねー」
一目惚れってやつ?と笑ったサッチはすぐに落ちた火種に小さく眉を顰めると呆ける私を見てニコッと笑みを浮かべた。
可愛くてしゃぁねぇの、と言ったサッチに熱を持った顔を隠す様にサッチから視線を逸らす。
からかうでもなく、時々ストレートにこういうことを言ってくるからホント勘弁してほしい……
なかなか引かない熱に、そんな私が面白いのかポンポン、と頭を撫でていたサッチがあ、と声を漏らした。
ソレにサッチを見やれば空を見上げていたサッチにほら、と上を指差された。
「ア……、止んでる」
それに同じように空を見上げればさっきまで土砂降りだった雨がいつの間にか止んでいた。
「どーする?折角だから出掛けてみる?」
「んー、良いや。ちょっと小規模だけどサッチと花火できたし」
そう言って笑えばキョトリ、と瞬きをしたサッチはどこか嬉しそうに笑みを浮かべるとさて、と立ち上がった。
「メシでも食う?サッチさん今日のために昨日から仕込みしてたんだぜー?」
「食べるー!お腹空いちゃった」
サッチのご飯楽しみ!と声を弾ませればそんな私を見下ろしたサッチがチュッと不意にキスをしてきた。
「じゃぁそのあとはサッチさんが君を美味しくいただいても良いかな?」
それにビックリしていればそう言ってニマニマと笑みを浮かべるサッチ。
「そーですねー。それはサッチさんの料理次第ですかねー」
そう言って呆れたように溜息を吐きだせばクツリと笑ったサッチが楽しみだなぁ、なんて嬉しそうに声を漏らした。


二人だけの花火大会


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