そして君に恋をする

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「あぃ、戻ってきたさぁ」
平古場の言葉にジッと幹を見つめていた木手は視線を正面へと戻した。
そこには遠くからでも分かるぐらい真っ白な包帯を巻いた甲斐と、その甲斐に少し支えられながらこちらへと歩いてくる知念がいた。
「わっさん、わっさん。心配したか?」
「いえ、全く」
そう言って笑った甲斐はそんな自分に即答する木手を見て小さく溜息を吐きだすと、ハハッ、と笑う平古場へと視線を向けた。
「監督まだわじっちょるさぁ?」
「今はなんくるないさぁ」
そう不安げにかけた声にン、と後ろ指を指した平古場に習い砂浜を見やった甲斐は、いつも通り、部員を扱く早乙女を見やるとあぁ、ホントだ。と声を漏らしどこか呆れたように肩をすくめてみせた。
「ところで甲斐君、五十嵐さんはどうしたんです」
そうかけられた声に早乙女から木手へと視線を戻した甲斐は、腕を組み不思議そうに自分を見やる木手にその眉を顰めさせた。
「ぬー言っちょるさぁ、やーが邪魔だって言ったんだばぁ?」
帰ったよ、と不貞腐れたように言葉を返した甲斐に無言で眼鏡を上げた木手を見た平古場は小さく苦笑を洩らすとそんな木手の肩をポン、と叩いた。
「楓をマネージャーにしようって、永四郎が」
「じゅんに?‼」
そう言ってな?永四郎、と木手を見やった平古場に、肩に回していた知念の腕を離した甲斐そんな木手にグッと詰め寄った。
「まだそうと決めたわけじゃないんですがね」
「うにげぇだしよ、えーしろー!!」
かけられた声に、未だどこか納得していないような木手はそんな甲斐へと言葉を返すとふぃ、と甲斐から視線を逸らしてしまう。
「ぬーんちそこまであぬひゃーに拘るんばぁ?」
ソレにそんな木手へと手を合わせ頭まで下げる甲斐に、懇願するよう木手へと頼み込む甲斐を見やった平古場は不思議そうに首を捻った。
それに顔を上げた甲斐は不思議そうに自分を見やる平古場や知念を見やるとその顔にニカッと笑みを浮かべてみせた。
「気に入ったんさぁ!」
そう声を弾ませた甲斐はまるで新しい玩具を見つけたときのように楽しそうで、そんな甲斐を見やった木手はどこか呆れたように溜息を吐き出した。
「永四郎も能力は認めちょるんだばぁ?」
「あんねぇるやつ滅多にうらんさぁ!」
「わんもあぬひゃーなら構わねーらんと思うさぁ」
一度マネージャーなど必要ない、と言ってしまった手前今更マネージャーにならないかと誘うのもいかがなものか、と頭を悩ませていた木手は、そうかけられた声に自分を見やる3人へと視線を戻し、ことさらその眉を顰めさせた。
平古場、甲斐、そして特に物事に頓着のない知念にまでそう言われてしまった木手は、深く溜息を吐き出すと組んでいた腕を解いた。
「明日にでも、話してみますよ」
「じゅんに!?やったさぁ!」
やれやれと言った感じで了承をした木手に、両手を上げて喜んだ甲斐はズキリ、と痛んだ腕にあがー!あがー!と左手を押さえ今度はその場にしゃがみ込む。
忙しないそんな甲斐の行動に、苦笑した三人はそろそろ早乙女の雷が落ちるだろう、と蹲る甲斐を引きつれ部員達の元へと歩きだしたのだった。

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