灰色世界

□17
1ページ/3ページ

アオギリの一件で暫く休業をしていたあんていくに、それの営業再開の目処がたったことに、珈琲豆の搬入や資材の調達をしていた四方はあ!と上がった声に足元に落としていた視線を正面へと向けた。
ヨモっさーん!と楽しげな笑みを浮かべ自分へと手を振る女性に、随分と久方振りに見る気もする久遠の姿にその歩みを止めた四方は、自分の元までやってきた久遠を見下ろすと久しぶりだな。と声をかけた。
それにお久しぶりです!と声を弾ませる目の前の人間は変わらず元気のようで、手にしていた紙袋を持ち直した四方は自分の隣に並んだ久遠を一瞥すると再び通りを歩き始めた。
「あんていく、営業再開するみたいですね!錦君から連絡ありました」
久しぶりに珈琲飲みに来いよ、って。とどこか嬉しそうに声を弾ませた久遠に、あぁ…。と小さく頷いた四方は良かった…、とどこか少しだけ寂しそうに笑みを浮かべた久遠を横目に見やると、正面へと視線を戻し小さくその眉根を顰めさせた。
「………アオギリの件では、お前にも迷惑をかけたな……」
「あぁ、いえいえ!結局私……何の力にもなれませんでしたね」
そうポツリと零した言葉に笑みを浮かべ自分を見上げた久遠はふと、その表情を曇らせると足元へと視線を落としてしまい、きっとウタ辺りから聞かされたのであろう金木の事に、そんな久遠を一瞥した四方はなんと言葉を返せばいいか悩むと、結局言い言葉が浮かばなかったんであろう口を閉ざし小さく鼻息を付いていた。
「金木君、今頃どうしてるんでしょうね……」
「………アイツが、自分で選んだ道だ。俺たちはただ……見守ってやる事しかできん」
暫く落ちた沈黙に、口を開いたのはやはり久遠で、そう声を漏らした久遠は未だ足元に視線を落としたままで、そんな久遠を見やりそう小さく言葉にした四方は、そう言った自分を見上げどこか不思議そうに目を瞬かせふふっ、と笑みを零した久遠を見やると怪訝そうに眉根を顰めさせた。
「……なんだ」
「いえ、やっぱ四方さん優しいんだなぁって」
そう言って楽しげにその顔を綻ばせる久遠に、意味が分からない、とことさらその眉根を寄せた四方は小さく鼻息を洩らすとそんな久遠から視線を逸らすよう、正面へと顔を向けた。
「まぁ、話聞く限りじゃ金木君一人じゃないみたいだし、ちょっと安心しました」
あの変態ナルシストが側にいるみたいだし、と嫌味をふんだんに込めそう言葉にした久遠に、その眉を嫌そうに顰める久遠を横目に見やった四方は、つい最近董香の元を離れ金木の所へと行った雛実のことを思い出すと、そうだな…。と言葉を返し見えてきたあんていくに久遠へと視線を落とした。
「………大体のことはウタから聞いていると思うが……今回の件はお前が気にすることではない」
「えっと……はい」
そう言ってゆっくりしていけ、とあんていくの扉の前で一旦歩みを止めた四方は、そんな自分を見てどこかその表情を強張らせた久遠に小さく眉を顰めさせた。
ほんの一瞬浮かんだその強張りに、ありがとうございます、とすぐに笑みを浮かべた久遠を見やった四方は、そのままあんていくへと入って行く久遠を見送ると閉まった扉に、いつだったかウタが言っていた言葉を思い出し小さく溜息を吐き出すと資材を置くため裏方へと向かった。

とくに久遠さんは……何か言いたくても言えない、って感じで

「言いたくても、言えない……か」
久遠が時折見せる陰りにも似た表情に、そう小さく声を漏らした四方はけれども自分にはソレを上手く聞き出す術がないことに三度溜息を吐き出すと裏方の扉へと手を伸ばしたのだった。

次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ