灰色世界

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――♪―♪♪

綺麗なピアノの音色と冷たい床の感触で目を覚ました私は視界に飛び込んできたステンドガラスに一つ目を瞬かせた。
一体全体……私は何故教会なんかの床で寝ているんだろう……。
「やぁ、お目覚めかな神崎さん」
「………そうだった」
呆けたように教会を見ていた私はそう不意にかけられた声に一気に現実に引き戻された。
此処は例のあの教会で、そして今私に声をかけてきたのは私を拉致った張本人。
鎮魂歌(レクイエム)はお好きですか?マドマーゼル」
「できりゃもっと目覚めの良い曲で目覚めたかった……」
モーツァルトじゃねぇか…、と優雅に鎮魂歌なんぞを弾いてくれる月山に小さく悪態をついてその身を起こす。
ズキリ、と痛んだお腹に容赦なく人のこと殴った月山を睨みつければおや、ベートーベンのほうがお好きでしたか?なんてのたまった彼が演奏を止めるとピアノイスから立ち上がった。
「もうこの際人の名前知ってる事には突っ込まないよ。人のこと拉致ってどうする気だ月山習」
「貴女も、どうやら僕のことをご存じのようですね神崎久遠さん。ならば話は早いでしょう?貴女と彼女は今宵の為のディナーなのですよ」
そう言って優雅に私にお辞儀をして見せた月山君に、彼の放った『私と彼女』という不可解な言葉を耳にした私はハタ、と目を瞬かせるとまさか…!と祭壇の上へと視線を向けた。
「っ……!!貴未ちゃんっ?!!なんでっ……?!!!」
「おやおや『何故』とはおかしなことを言う。もちろん、彼女もまた僕と金木君の為に用意した最高のディナーなのだから、居て当然なのさ」
祭壇の上に目隠しをされた状態で横たわる貴未ちゃんの姿に、そう言った月山を見て愕然とする。
つまり……私は貴未ちゃんの代わりでもなんでもなく、本当に今回の件に巻き込まれただけなのだ……。
なんつートバッチリ……!!!じゃ、なくて……最悪だ……多分物語上貴未ちゃんに危害が加えられる事は無いのだろうけど、私は分からないのだ……
そう!だって私イレギュラーな存在なんだもん……!!!

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