千年歌

□19
1ページ/5ページ

提出用のプリントを手に職員室に来ていた紫苑は、デスクをジッと真剣に見つめる鵺野を見つけるとキョトリ、と目を瞬かせた。
瞬きもせずに一心にデスクを見つめる鵺野に、先生、と声をかけようとした紫苑は鵺野のデスクの上に置かれるカップラーメンを見やるとひどく呆れた視線を鵺野へと向けた。
「おいコラ平教師、ちゃんと昼飯食べたじゃろ」
妾のパンも食べとったじゃろ、と手にしていたプリントをドン!と鵺野の前に置いた紫苑に、カップラーメンを取り上げようと手を伸ばした紫苑からソレを死守するように遠ざけた鵺野はジトリ、と自分を睨みつける紫苑を見やるとその眉間に皺を寄せた。
「俺は大人なの!子供と違って胃袋大きいの!!」
「燃費の問題じゃろうて、そんな偏った食事ばっかしおってからに……!!」
いつか体調を崩してもしらんからな、と鳴ったタイマーにいそいそとカップ麺の蓋を開け割り箸を手に取った鵺野に、溜息を吐きだした紫苑はその近くで苦笑を洩らす律子を見やると肩をすくめてみせた。
それにふふ、と笑った律子はあのゆきめの騒動以来紫苑の正体を知る数少ない人間に加わったのだ。
時折呼ばれる紫苑『さん』の敬称に、心境複雑じゃな…とそんな律子から鵺野へと視線を戻した紫苑は幸せそうにラーメンを啜る鵺野を見やると鳴り響いた電話に鵺野のデスクの上の電話へと視線を落とした。
プルプルと鳴り続ける電話に、ソレを取るよう鵺野に促した紫苑は口をモグモグさせながら受話器を手に取りもひもひ、と言葉を発した鵺野の手から受話器を引っ手繰った。
「お主それでも教員か?!先方に失礼じゃろ!!」
そう声を荒げ鵺野の代わりに受話器を耳に当てた紫苑は苦笑を洩らし頭をかく鵺野をジロリと睨むと失礼しました、と受話器に向かい言葉を発した。
「こちら童守小学校です。御用件をお伺いします」
『全部筒抜けでしたよ、紫苑さん』
そう言ってクスクスと聞こえてきた笑い声にパチリ、と目を瞬かせた紫苑は聞き慣れたその声の主になんじゃお主か、と声のトーンを落とすと何用じゃ、と受話器の向こうにいる玉藻へと言葉を返した。
『えぇ、ちょっと面白いものを見つけたもので。鵺野先生に代わっていただけますか?』
そう言ってふふ、と笑った玉藻に面白いモノ…?と小さく声を漏らした紫苑はカップ麺を啜りながら自分の会話を不思議そうに聞いていた鵺野へと受話器を差し出した。
「ん?俺にですか?」
「童守総合病院の玉藻先生からです」
そう言ってホレ、と受話器を受け取る様に促した紫苑に某外科医の名前が出てきたことにパチクリと目を瞬かせた鵺野は受け取った受話器を肩で挟むとズズズッ、とラーメンを啜った。
「よぉ、タマちゃんどうしたー?え?なになに面白いモノ?!まさか板井歯科とか草井肛門科とかパの取れっ………イッテェ!!」
そう言葉を続ける鵺野に、あまりにも低レベルな発想の鵺野の発言にプルプルと拳を震わせていた紫苑はその脳天に拳骨を落とすとお主は低学年か!!?と声を荒げていた。
「何も殴る事ないじゃないですか……まったく。ん?あぁ、分かった放課後な。え?紫苑さんも?おう、分かった、じゃぁ放課後集英医大で」
殴られた頭をさすりながら受話器の向こうに言葉を返した鵺野はチン、と受話器を本体へと戻すとどうした?と声をかけてきた紫苑を見やった。
「放課後玉藻が見せたいものがあるって、紫苑さんも連れて集英医大に来てくれと」
「集英医大……?」
突然の玉藻からの連絡に、再びカップ麺を食べ始めた鵺野を見やった紫苑は怪訝そうに眉を顰めるとそう声を漏らし小さく分かった、と頷いて鳴ったチャイムにそのまま職員室を後にした。

次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ