千年歌

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体育館裏で見つけた最近ではなかなかお目にかかれない珍しい動物に、パチリと目を瞬かせた紫苑は縄に縛られ餌を食べるタヌキを見やると珍しい、と声を漏らしていた。
「なんじゃお主、こんな所で縄に縛られてまったく情けないのぉ」
「あぁ!紫苑さんそれ縄ほどいちゃダメよ?!!」
そう言ってポンポン、とタヌキの頭を撫でた紫苑はどこか慌てたようにこちらにかけてきた郷子達を見やると目を瞬かせた。
まだタヌキが縄に繋がれているのを見やり、ホッと胸を撫で下ろす郷子達に怪訝そうに眉を顰めた紫苑はその手に持たれている動物用の餌を見やるとタヌキへと視線を落とした。
「このタヌキ、微かに霊力を感じるが何か騒動でもあったのか?」
「あぁ、そういや紫苑さんそのとき学校休んでたな」
時たまフラッと居なくなる紫苑に、タヌキの餌バチに餌を入れた広はソレが大変だったんだぜー、と少し前に起こった騒動を思い出すとヤレヤレ、と肩をすくめ様子を見に此方へとやってくる鵺野へと視線を向けた。
それに同じように鵺野へと視線を向けた紫苑はタヌキを見て、鵺野を見やるとあぁ成程。と全てを理解したように声を漏らした。
「大方鳴介にでも化けて悪戯でもしたんじゃろ、この子タヌキが」
「おぉ、流石紫苑さん!良く分かってるねー!」
そう言ってホント災難だったのよ、と笑う郷子と広に足元のタヌキへと視線を落とした紫苑は随分と人懐こいタヌキを見やるとふむ、と声を漏らした。
「育て方次第では化けタヌキになるやもしれんな、此奴」
「オイオイ、冗談はやめてくださいよ!コイツはしっかりしつけて普通のタヌキに戻すつもりなんですから!」
見込みはありそうじゃ、とどこか楽しげにタヌキを見やった紫苑にギョッと目を見開いた鵺野はそんな紫苑を慌てて止めに入った。
それに冗談じゃよ、と笑った紫苑は慌てる鵺野を見やると縄に繋がれたタヌキを一瞥しその場を歩き出す。
「あれ?紫苑さんもう行っちゃうの?」
可愛いのに、とそのタヌキの頭を撫でながら紫苑を振り返った郷子に、んー?とさして興味なさげに声を漏らし郷子達を振り返った紫苑はその足元に居るタヌキを見やると小さく肩をすくめてみせた。
「あまり狸は好きではないからのぉ」
「なんだよ同じ化け妖怪じゃないか」
仲良くしろよ、とハハハと笑った広に格が違うわ、といささか不機嫌そうに言葉を返した紫苑は小さく溜息を吐きだすと体ごと広達へと向き直った。
「ひと括りに『化け妖怪』と言うても種類は様々じゃ。其奴のようにエクトプラズムを吐きだして化けるヤツもおれば、妾や玉藻のように依り代(よりしろ)を使うて化ける妖怪もおる。知性があるやつもおれば、ただただ変化に特化しただけのものもおる。其奴に妾と同じことをしてみろと言うたところで出来るわけなかろうて」
「紫苑さんにも妖怪としてのプライドがあるのね」
そう言ってフン、と鼻息をついた紫苑に、変化が出来る、というだけで同等に扱われたことが気に喰わないんだろどこか不貞腐れたような表情を浮かべる紫苑を見やった郷子はそう言うとゴメンなさい、と楽しげに肩を震わせた。
それに分かれば良いわ、と言葉を返しその場を去ろうとした紫苑はアレ?ちょっと待てよ?と声を漏らし首を傾げた広に足を止めると不思議そうに広を振り返った。

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