千年歌

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先生サヨナラ―!という声が響く校庭に、杉の木の前で足を止めた紫苑はその上で仲睦まじげに寄りそう二羽の烏を見やると何かを考えるようにジッとその二羽を見つめた。
「人と人を結びつける比翼の烏、か……」
変わった霊もおるものよ、と声を漏らした紫苑は不意に叩かれた肩にビクリを体を震わせた。
「何をしているんですか?こんな所で」
「そ、そういうお主こそココで何をしておるんじゃ……?!」
先に声をかけい!!と未だバクバクと音を立てる心臓に、音もなく後ろに立った玉藻を振り返った紫苑は、もう教生でも何でもない人間が小学校に居ることに怪訝そうに眉を顰めた。
ソレにあぁ、すいません。と悪びれる様子もなく謝った玉藻は先程まで紫苑が見ていた所へと視線を向けた。
「片翼の烏の霊ですか」
へぇ、珍しい。と声を漏らした玉藻に、同じように杉の木を見上げた紫苑は隣に立った玉藻を横目に見やるとのぉ、とそんな玉藻に声をかけていた。
「お主は噂話や言い伝えを信じるか……?」
「信憑性の度合いにもよりますが、大抵の噂や言い伝えにはソレの元となる何かがありますから」
多少は、と答えた玉藻にそうか、と声を漏らした紫苑は再びその比翼の烏へと視線を戻した。
「この杉の木の下で愛の告白をしたモノは必ず結ばれる、という噂じゃ。あの比翼の烏は随分と長いこと寄りそって生きておったらしいが、死んでもなお共に居たいと願ったんじゃろうなぁ」
それが他者へ影響を与えるんじゃと。とその二羽の烏を見上げる紫苑に、そんな紫苑の横顔をチラリと見やった玉藻は読みとりにくいその表情にへぇ、と声を漏らすと烏へと視線を戻した。
「人間とは面白い生き物ですね。そんな噂を信じるなんて」
「あながちホラでもないようじゃ。実際コレを試した娘の心に少し変化があっての」
まぁ、結ばれはせんかったが、と笑った紫苑にふとぬ〜べ〜クラスのおかっぱ頭の女の子を思い出した玉藻はあぁ、彼女か…と声を漏らすとクツリと喉を震わせた。
「でしたら試してみますか?」
「憑いたとて妾とお主とではなんの影響も受けんよ」
移ろいやすい心でもなかろうて、と自分の言葉を一笑して歩き出してしまった紫苑に、その背を何か言いたげに見つめていた玉藻は帰らんのか?と自分を振り返った紫苑を見やるとキョトリ、と目を瞬かせて苦笑を洩らした。
不思議そうに自分を見やる紫苑に、帰りましょうか。と言葉を返した玉藻は再び歩き出した紫苑の背を見やると一度だけ杉の木を見上げると小さく肩をすくめ紫苑の背を追うように歩き出した。



人の心と秋の空


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