千年歌

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「のぉ、鳴介」
「んー?なんですか?」
ガヤガヤと賑やかな昼休みの教室でデスクに座り5時間目の授業の確認をしていた鵺野は不意にかけられら声に窓から校庭を見下ろす紫苑へと視線を向けた。
このところあまり優れない体に、ちと休む、と学校を休んでいた紫苑は久しぶりなその顔ぶれに、校庭を元気に駆け回るクラスメートへと視線を落とした。
「『比翼の烏』を知っておるか?」
「『比翼の烏』……?今美樹と広についてる動物霊のことですか?」
そう声をかけてきた紫苑の視線は未だに校庭へと向けられていて、イスから立ち上がった鵺野もなんとはなしに校庭を見下ろした。
楽しげに遊ぶ児童に、その中に自分のクラスの生徒を見つけた鵺野は元気があってよろしい!と頷くとベッタリとくっつく美樹と広へと視線を向けた。
ベッタリ、といっても美樹が一方的に広にひっついているだけなのだが。
「確かに浮幽霊や背後霊なんかも少なからず憑いている人物に影響を与えますけど、たかが動物霊が人の感情にまで介入はしないでしょう」
ほっといてもそのうち離れますよ。なんて笑った鵺野に、仲睦まじく寄りそう二羽の烏霊を見やった紫苑は、少し離れた位置でひどく寂しそうにそんな二人の姿を見つめる郷子へと視線を落とした。
「知っておるか?人間というものは移ろいやすいモノ。ただほんの少し心を揺さぶっただけで、簡単に落ちてしまうものよ」
幼子であればなおさらのぉ、とクツリ、と喉を震わせてやっと自分へと視線を向けた紫苑にパチリ、と目を瞬かせた鵺野はもう一度美樹と広へと視線を落とし、離れた位置に一人佇む郷子へと視線を向けた。
「美樹の好奇心旺盛なところは妾も好いておるよ。じゃがな、度が過ぎればそれはもはやただのハタ迷惑じゃ。もうちぃと相手の気持ちを考えられるようにならんとの」
「紫苑さんは……美樹と広では釣り合わない、とでも?」
そう言って歩き出してしまった紫苑に、校庭から紫苑へと視線を戻した鵺野はそう問いかけた言葉に足を止め自分を振り返った紫苑を少し真剣な眼差しで見つめた。
「そうは言うておらんじゃろ。引かれ合い、愛し合い、時には別れ。『人』というものはそういうものじゃろうて、好いた惚れたは勝手じゃし、そんな人間を沢山見てきたわ。美樹と広がホンに愛し合うておるのなら妾とて応援してやるよ。友人を取るか、恋人を取るか、その『時』の人の心情を見るのはなかなかに面白いものでのぉ」
そう言ってヒラリ、と手を振って教室を出て行ってしまった紫苑に、回答をうやむやにしたまま立ち去ってしまった紫苑の背を見送った鵺野はガシガシ、と頭をかくと校庭へと視線を落とした。
ピットリと仲睦まじく寄りそう烏に、楽しむ美樹と寂しげな郷子の顔を見やった鵺野は紫苑の言葉に深々と溜息を吐きだすとデスクへと腰を下ろしたのだった。

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