千年歌

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どこかソワソワと浮足立つ教室内に、あぁ、今年ももうそんな時期か、とカレンダーを見やった紫苑は男子も女子も互いに相手を意識しているのを見やると若いのぉ、と声を漏らしていた。
「ねぇ!紫苑ちゃんは誰にあげるの?」
そう不意にかけられた声に、自分の元にやってきた美樹を見やった紫苑は不思議そうに何を?と首を傾げた。
それにやれやれ、と呆れたように肩をすくませてみせた美樹はそんな紫苑を指差すとバレンタインよ、バレンタイン!と紫苑へと顔を近づけた。
「ほらー、紫苑ちゃんも好きな相手ぐらいいるでしょー?」
「いないしあげないよ?」
何故あげることを前提に話が進んでいるんだ、と苦笑を洩らした紫苑はそんな自分を見やりギョッとした表情を浮かべる美樹を見やると読んでいた本をパタリと閉じた。
「いないって……、だって私達もう小学5年生なのよ?!良いなぁって思う人ぐらいいるでしょー?」
「ガ……、いないし、考えたこともなかったかなぁ……」
ガキに興味はない、と言いかけた言葉を呑み込みその顔に笑みを浮かべてみせた紫苑はえー、と疑いの眼差しを向けてくる美樹を見やると、廊下を横切った郷子を視界に収めふと、美樹へと視線を戻した。
「そういえば、郷子ちゃんはあげるのかな?」
「あー、広に?そりゃぁあげるでしょ!なんたってあの二人クラス中の噂だからねー!」
そう言ってうふふ、楽しみ!と顔をニヤケさせた美樹にその噂を広めとるのはお前さんじゃ、と呆れたように笑った紫苑はそれじゃぁ、と声を漏らすと徐に席から立ち上がった。
「私、ちょっと郷子ちゃんに聞いてくるね!」
「あ、じゃぁ私は広に聞いてこようかなー!」
そう言ってじゃぁそっちヨロシクね!と言って駆けていった美樹に、やっと解放された…と小さく息を吐きだした紫苑は言ってしまった手前一応聞かねばな、と郷子を追うべく教室を後にしたのだった。

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