千年歌

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サラサラと黒板に書かれていく文字に、あ、また違うとる…とめちゃくちゃな年号を黒板に書いていく鵺野を見やった紫苑は、パラリと本のページを捲る音にチラッと後ろを振り返った。
涼しげな表情でパイプ椅子に腰かける玉藻の姿に、ホンに懲りんなぁ…、とある意味その執念深い妖狐に尊敬の念を抱いた紫苑はふと此方を見やった玉藻に、合った視線を逸らす様にパッと教科書へと視線を戻した。
『紫苑ちゃん、どこか分からない所でもありましたか?』
そう小声でかけられた声に、いやに近くで聞こえた玉藻の声に教科書へと視線を落としていた紫苑はサラ、と頬に触れた銀糸の毛にビクリ、と肩を震わせた。
いつの間に席を立ったのか、自分の教科書を一緒になって覗きこむ玉藻に、肩に置かれたその手を見やった紫苑はあの…と抗議の声を上げようと玉藻へと視線を向けた。
「はな「くぉらぁー!!玉藻、先生っ!!えこひいきはいかんぞえこひいきは!!!」」
離れてください、と言葉にしようとした紫苑はそう声を荒げた鵺野に再びビクリと肩を震わせた。
それにそれまでそれなりに静かに授業を受けていた生徒達が一斉に自分達を振り返ったことに、わぁ!高野さんだけズルーイ!と上がった声に、珍しくその顔に焦りを見せた紫苑はガタタッ、とイスを鳴らすと玉藻から距離を取った。
「えこひいきではありませんよ、私は紫苑ちゃんからココがおかしい、と言われ話を聞いていただけです」
「それにしてはやけに近くなかったかぁ……?」
そう言って疑いの眼差しを向けてくる鵺野に、やれやれ、と肩をすくめてみせた玉藻は手にしていた教科書へと視線を落とした。
「先程鵺野先生がご説明された大化の改新ですが、794年ではなく645年です。
794年は平安京!さらに蝦夷と入鹿は兄弟ではなく父子です!ですよね、紫苑ちゃん?」
「へ?あ……はい」
そう言ってはぁ、と溜息を吐きだし自分へと視線を落とした玉藻に、まるで話を合わせてください、というようにウィンクをした玉藻に小さく頷いた紫苑は顔を真っ赤にさせる鵺野を見やるとイスへと腰掛けた。
『すいません、私の所為で注意をされてしまいましたね』
一通り生徒にからからかわれた後進み始めた授業に、まったく…と溜息を吐き出していた紫苑はそうかけられた声にチラリ、と後ろを振り返った。
微笑を浮かべ自分を見やる玉藻に、いえ…と端的に言葉を返した紫苑はウォッホンッ!とわざとらしく咳をした鵺野に、黒板へと視線を戻す。
何か言いたげに自分へと視線を向ける鵺野に、勘弁してよ…と小さく溜息を吐きだした紫苑は教科書へと視線を落とすのだった。

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