彼と私の航海日誌

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電車に揺られてやってきたのはのどかだけれど、海の見渡せる町だった。
吹く風に磯の香りが鼻をくすぐってソレを胸一杯に吸い込む。
特に目的は決めていなかったけれど、行くのなら海が見える町が良かったのだ。
波の音をBGMにブラブラと町を歩いていると観光かい?と声をかけられる。
それにそうですよ、と返しそのおじいさんと少し立ち話をする。
海苔の生産が盛んだとか、この時期はこの魚が美味しいよ、と色々教えてくれるおじいさんに、いい町に来たな、と思っていればそうそう、とその顔を綻ばせたおじいさんが目の前に見える小さな山林を指差した。
「少し山奥にある御茶屋がお勧めだよ」
そう言って笑みを浮かべたおじいさんに、お礼をいって教えてもらった御茶屋へと向かうべくその山林へと入っていく。


サクサクサク、と木々が連なる道をひたすら歩く。
歩くのは良いんだけど、いっこうに御茶屋が見える気配はない。
進めど進めど見えてくるのは木ばかりで、もしかして道間違えちゃったかな、と不安になった。
このまま進んでも迷子になりそうだと思い、一旦戻ろうかと後ろを振り返ったけどだいぶ歩いてきたんだろう後ろも木ばかりで………
これは所謂迷子というやつですかね……?
まったく知らない土地に一人、迷子になると言うのは不安しかない
「そうだ、地図!」
御茶屋の名前も教えてもらったからここはやっぱり文明の利器を使わなければ!とポケットから携帯を取り出し地図のアプリを開いて御茶屋を検索する。
電波が微弱で少々不安な所もあるけれど表示された目的地を見てコレで何とかなるだろう、と歩き出した瞬間足元が突然崩れ落ちた。
「へ……?!」
ズボリ、とまるで落とし穴にでもハマるように抜けた足元に一気に視界が下へと落ちる。
真っ暗になった視界に、何とも言えない浮遊感。
下へと落ちている感覚はあるのに、いっこうに地面に足がつく感じがしない。
グラリと揺れた頭に上も下も分からなくなりプツリ、とそこで私の意識は途絶えていた。




そして世界が暗転した


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