彼と私の航海日誌

□6.5
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こちらの世界に戻ってきてすぐ、マルコは自分があちらの世界に行ってこれまでに起きていたことを全て船長である白ひげへと報告したのだ。
にわかに信じがたいその話にも、白ひげは偉大なる航路(グランドライン)じゃ何があっても不思議じゃねぇ、と笑ったのだ。
向こうの世界の話に興味深々なエース達を見やったマルコは、一気にグラスを仰ぐと再び手元のカギへと視線を落とした。
「面白ぇ世界だったよぃ……。見たことねぇモンで溢れてた」
そう言って目を細めたマルコに、同じようにグラスを傾げたサッチはクツリと喉を震わせた。
どこか愛しそうに手の中のカギを見やるマルコは、こちらへ帰って来てから少しばかり変わったのだ。
些細な変化だが、少しだけマルコの纏う雰囲気が柔らかい物に変わったことにサッチも、エースも、イゾウ達もそんなマルコを見て不思議そうに顔を見合せたのだ。
再び差し出されたグラスに、もう随分と飲んでいるマルコを見やったサッチは大丈夫か?と心配げにそんなマルコへと声をかけた。
それにサッチを一瞥したマルコは、再びグラスに注がれた酒を一口飲むとクツリと喉を震わせる。
「後悔するぐれぇなら………深く関わらなきゃぁ良かったねぃ……」
そう小さく零された言葉に眉をひそめたサッチはイゾウ達と視線を交わすと、再びマルコへと視線を戻した。
どこか自嘲の笑みを浮かべ眉を下げるマルコに、ひたすらにグラスを見つめるマルコを見やったサッチは同じように自分のグラスへと酒を注ぐとソレをグイッと仰いだ。
「もう、二度と会えねぇんだよぃ……」
アイツには、と小さく声を漏らし眉を寄せたマルコを見やったサッチやイゾウが小さく目を見張る。
こちらの世界に戻ってきてからのマルコは前にも増して仕事に没頭するようになっていたのだ。
ソレが何故なのか、はっきりとした理由を今見つけたサッチ達は、静かにグラスを仰ぐマルコを見やると小さく口元に弧をかいた。
「マルコ、お前ぇさん……その娘に惚れてたのかい?」
単刀直入なイゾウのその言葉に、グラスから顔を上げたマルコはどこか呆けたように目を瞬かせるとあぁ、と小さく声を漏らし再びグラスへと視線を落とした。
「俺ぁ……渚が好きになっちまってたんだねぃ……」
イゾウの言葉にずっと心に燻っていた靄が晴れたことに、そう小さく零したマルコはハハッ、と声を漏らすとグラスを持っていた手にグッと力を込めた。
「今更気づいた所でもぅ遅ぇ………。もう、二度と渚にゃ会えねぇんだよぃ……」
そう言ってきつく眉を寄せたマルコは残っていたお酒を一気に煽る。
ゴトン!と置かれたグラスに、黙って自分を見やるサッチ達の視線を受け顔を上げたマルコはふと、どこか寂しそうにその顔に笑みを浮かべた。
「アイツァ、こんな俺を……笑って受け入れてくれたんだよぃ……」
嬉しかった、と小さく零したマルコはドサリ、と何の前触れもなくその場に倒れ込んでしまった。
「マルコ?!」
ドシャ、と甲板へと倒れ込んだマルコに、ギョッと目を見開いたサッチやハルタが慌てたようにそんなマルコの体を揺する。
それに、小さく聞えてきた寝息に安堵の息を漏らしたサッチは、呆けるエース達を見やると苦笑を浮かべてみせた。
「俺……マルコが酔い潰れんの初めて見た……」
そう小さく零したエースに僕達だってそうだよ、と苦笑を洩らしたハルタ。
そう言ったハルタを見やり、もう一度眠りについたマルコを見下ろしたエースはなぁ……、と声を漏らすとその場に集まる隊長達へと視線を向けた。
「俺ちょっとだけ会ってみたくなった」
その『渚』ってやつに、と言って笑ったエースに、キョトリと目を瞬かせ顔を見合わせたサッチとジョズはそんなエースにひっそりと苦笑を洩らす。
「確かになぁ、あの鬼のマルコをこんなにしちまうんだもんなー」
「阿呆、コイツが自分のことを他人に話すと思ってんのかい?
その『渚』って娘、きっと『悪魔の実』のことも何も知らされちゃぁいねぇさ」
どんな子だろ、と笑ったサッチに呆れたようにそう言葉を返しお猪口を傾げたイゾウ。
そう言ったイゾウの言葉に、ジョズやエースは寝息を立てるマルコへと再び視線を落とした。
マルコが自分の能力のことをあまり話したがらないのは何となく気づいていたし、それはジョズやエース、他の能力者でも同じことだった。
ましてや渚の世界には『悪魔の実』さえ存在しないというのだ。
自分達のこの特殊な体質を知った時の彼女の反応を考えると、サッチ達はマルコの変化を素直に喜べなかった。


遅い恋心


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