金色猫とタンゴ

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「ックシ……!」

張り詰めていた緊張が解けたからなのか雨に濡れ続けたからなのか漏れたくしゃみに、小さく身を震わせた幸はまだ少し湿り気を帯びる髪の毛を見やると小さく溜息を吐きだした。
今日はもう帰ろうか、と未だゆるゆるとその背を撫でてくれているマルコに、抱き締められた状態からどうその腕を解いてもらおうかと言葉を悩ませていた幸は不意に解かれたその腕に小さく安堵の息を漏らすとポスリ、と頭に被せられたバスタオルにパチリと目を瞬かせた。
「随分体が冷えちまったねぃ。風呂入ってるから湯に浸かってゆっくり体温めろよぃ」
そう言ってベッドサイドから立ち上がったマルコに、頭に被せられたタオルを退けクローゼットを漁るマルコを不思議そうに見やった幸は、ぇ…?と小さく声を漏らすと遠慮がちにそんなマルコの背へと声をかけていた。
「あ、の……マルコ……?」
「ちとデケェがこれ着て寝ろよぃ」
そうかけた声に、振り向きざまに投げられたグレーのスウェットを受け取った幸はは…?と声を漏らすと手元のスウェットと自分を見やるマルコを見て、再び目を瞬かせた。
「マ、マルコ……?私もう帰るから……大丈夫、だよ……?」
「帰るったってお前ぇ……家にゃ帰るつもりはねぇんだろぃ?こんな時間帯に外ほっつき歩いてて変な輩にからまれたらどうすんだぃ?」
良いから泊ってけ、と返そうとしたスウェットを無理やり押しつけてきたマルコに、どこか呆れたように自分を見下ろすマルコを見やった幸はパチパチと目を瞬かせると手元のスウェットへと視線を落とし呆けたように再び目の前のマルコを仰ぎ見た。
「あ、りが……とう?」
さも当然の如く泊っていけ、と言った目の前の『男性』に、彼の中に友人の家に泊る、と言う選択はなかったんだろうか…?と小首を傾げた幸は風呂入れよぃ、と押された背中にベッドから立ち上がるとバスルームへと向かったのだった。

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