金色猫とタンゴ

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「〜〜♪〜♪」
ひどく上機嫌に鼻歌を歌いながら通路を歩いてくるサッチに、会議の資料へと視線を落していたマルコはふと、そんなサッチを見やると怪訝そうに眉を顰めその歩みを止めた。
「随分と、楽しそうじゃねぇかぃ」
なんかあったのかぃ?とかけられた声に給湯室に入っていこうとしていたサッチはお!と自分へと声をかけたマルコを見やるとそれはそれは楽しげに顔を綻ばせた。
「マッルコちゃ〜ん!なんだよなんだよ、気難しそうな顔しちゃってー!」
ん?生理か?とひどく上機嫌に自分の肩を叩いてきたサッチの手を払いのけたマルコは違ぇよぃ、と呆れた様に言葉を返すと能天気に笑みを浮かべるサッチを見やり小さく溜息を吐きだした。
「この顔は生まれつきだぃ。んで、お前ぇは何をそんなに楽しそうにしてんだぃ?」
「んふふ〜、それがよぉ俺が手伝いしてる居酒屋のバイトの子がスンゲェ可愛くてさぁ」
そう言って顔をだらしなくニヤケさせたサッチに、随分と前に聞かされたその話を思い出したマルコはあぁ、とどうでもよさげに相槌を返すと手元の資料へと視線を落した。
「落とす落とさねぇって言ってたアレかぃ」
「それがさぁ、この前その子とメアド交換してたまぁにメールとかもしちゃったりしてんだって!」
コレって脈ありじゃね?!と喜々とした表情を浮かべるサッチにヨカッタネィ、と心の籠らない言葉を返したマルコはそれでも顔をニヤケさせるサッチを横目に見やると開いていた資料を閉じソレでポンポン、と自分の肩を叩いた。
「その女も確か20そこそこの娘だろぃ?お前ぇ、自分の歳分かってんのかぃ?」
もうすぐ30も後半だ、と呆れた視線を自分へと寄越したマルコに、ヴッ…と言葉を詰まらせたサッチはふと、脳裏に浮かんだ金髪美女に、まだ成人すらしていない、とはとても目の前のお固い友人には言えるはずもなくワハハ!と苦笑いを浮かべるとそんなマルコからソッと視線を逸らした。
「歳の差なんてなぁ好きになっちまえば関係ねぇってんだよ!それに普段ツンケンしてる分たまぁに見せる可愛い仕草がこうグッとくんだよねぇ」
もう可愛いったらねぇの!と声を弾ませたサッチに、美人に目がない眼の前の旧友を呆れた様に見やったマルコはあぁ、そうかよぃ…。と言葉を返すと腕時計へと視線を落した。
「恋に熱上げんのも大概にしとけよぃ。良い歳したオッサンが恥ずかしくねぇのかよぃ」
「おぉい、マルコ………お前なぁそんなだから女できねぇんだよ……」
そう言って会議の時間が迫っているのだろうその場を後にしようとしたマルコは、そう呆れた様に自分へと声をかけたサッチを振り返ると小さくその眉を顰め面倒くさげに鼻息を漏らした。
「恋だなんだと浮かれる歳でもねぇだろぅよぃ。それに、俺ぁ女にかまけてるよりその辺のガキィ相手にしてる方が性にあってんだよぃ」
そう言って、どこか楽しげに口元に弧をかいたマルコを見やったサッチはキョトリ、と目を瞬かせると不思議そうにマルコへと向き直った。
「なんだよ、なんか面白ぇ餓鬼にでも会ったのか?」
「あぁ、ちぃとねぃ……。少し前に野良を拾ってよぃ。今世話してんだ」
懐くと可愛いもんだよぃ、と楽しげな笑みを浮かべたマルコに、非行に走る子供を見つけると放っておけない性質の友人を見やったサッチは呆れた様に溜息を吐きだすとヤレヤレ、と肩をすくめてみせた。
「お前なぁ、餓鬼なんか相手してっから女が寄りつかねぇんだよ!青臭ぇ子供より色気あふれる美女だろ美・女!!」
「お前ぇの頭の中は年がら年中女のことばっかじゃねぇか……。俺ぁ良いんだよぃ。今ぁガキの相手してりゃぁソレで満足なんだからねぃ」
そう言ってじゃぁな、と後ろ手を振って歩き出してしまったマルコに、周りの女にまったく興味のない同僚の背を見やったサッチはモテるくせに勿体無ぇ…と小さく零すと給湯室へと入っていったのだった。

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