金色猫とタンゴ

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ガヤガヤと賑やかな店内に、一通りの作業を終え裏方へと入った幸はそこで煙草をふかす男の姿を目に留めると僅かにその眉を顰めさせた。
「幸男、なにサボってんの……」
「おっ!幸ちゃーん!お疲れー!今休憩?」
そうかけた声に自分を振り返り満面の笑みを浮かべた男性に、店長に言いつけてやる、とことさらその眉間の皺を濃くさせた幸は付けていたエプロンを取り外すとロッカーから携帯を取り出しパイプ椅子へと腰掛けた。
「サボりじゃねぇってんだよ、俺っちも今休憩なの♪」
「幸男と休憩被るとか最悪だ……」
そう言ってウィンクをして見せた男性に、コックコートを着る男性を横目に見やりひどく煩わしげにそう声を漏らした幸は新着メールを知らせるホーム画面を見やると携帯を開く。
「君ね……?思ってても口に出して良い事と悪い事があるって知ってる……?あ・と!『幸男』はやめろ!!『サッチ』もしくは『サッちゃん』って呼べって言ってんだろ!!」
本名禁止!!とズビシ!と自分を指差し眉を釣り上げたサッチに、明日どっか遊びに行こうぜー!というエースからのメールを見ていた幸はソレに了解、と返事を返すとそんなサッチに冷ややかな視線を向け、無言で携帯へと視線を戻した。
「………君、ホント冷めてるね……。ホールなんだからもっと愛想よくしろってんだよ!」
「親の腹ん中にアイキョー落としてきたから無理」
そう言っていよいよ自分の言葉など聞く気も無くなったのかイヤホンを耳にかけようとしだした幸を見やったサッチは、一つ溜息を吐きだすと短くなった煙草を灰皿へと押しつけあ、と思い出したようにそんな幸へと視線を戻した。
「幸ちゃん、飯まだだろ?賄いかなんか作ってやろうか?」
「じゃー『サッちゃん特性天ぷら』で」
そう言って俺もなんか食べよー、とあまりモノで何を作ろうか浮き浮きとしていたサッチは、そんな自分へと言葉を返した幸を見やると面倒くさげにその眉を顰めさせた。
「お前なぁ!天ぷらは時間かかるって言ってんだろ!もっと簡単なのにしろってんだよ」
「だって私サッチの天ぷら好きだし」
そう言って眉を釣り上げ腰に手を当て自分を見下ろすサッチに、サクサクぷりぷりで、と言葉を返した幸は途端にその顔をニヤケさせたサッチからふぃ、と顔を逸らした。
「しゃーねぇーなぁー!今日だけだぜー?ホントは揚げモンは賄いに入んねぇんだから」
サッちゃんのツケな!と声を弾ませ浮き浮きとしたように休憩室を出ていくサッチに、そんなサッチへとヒラリと後ろ手を振った幸はパタリ、と閉まった扉を見やると堪らずフフッ、と肩を震わせた。
「チョロい」
料理の事を褒めると途端に機嫌を良くするサッチに、そう言えばサンジも似たような性格してたな、と学校の後輩を思い出し同類か、と小さく零した幸は徐にイスから立ち上がると『幸男』と書かれたロッカーをガチャリ、と開いた。

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