金色猫とタンゴ

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「あー……『グランドライン高校3年2組『アメリア・幸』ねぃ……。お前ぇ……そのなりで、18かぃ……」
暫くして落ち着いた幸の嗚咽に、家はどこだ学校は?とそんな幸へと質問していたマルコは、ポイ、と投げ渡された長財布に、そこに入っていた『生徒手帳』を取り出すとソコに書かれているプロフィールを読み、ベッドの隅で膝を抱える幸をチラリと見やった。
外国の血を引いているせいもあるんだろう実年齢より幾ばくか上に見える外見に、もう一度手元の生徒手帳へと視線を落したマルコは小さく鼻息を漏らすと悩ましげに頭をかいた。
(拾ったガキが後輩とはねぃ……相変わらず荒れてんねぃ、アソコは)
ふと脳裏に過った母校の学び舎に、一つ息を吐きだしたマルコは手にしていた生徒手帳を長財布へと戻すとソレで幸の頭をポン、と叩いた。
「取りあえず、今日は家に帰れよぃ。親も心配してるだろうしねぃ」
「………心配するような親なんかいない。父親なんか今頃酒飲んだくれて寝てるよ……」
そう言ってふぃ、と自分から顔を背けてしまった幸に、きっと家庭が上手くいっていないんであろう目の前の少女を見やったマルコはチラリ、と壁にかかっている時計を横目に見やると10時を差す時計に参ったように頭をかきそんな幸の隣へと腰掛けた。
「幾つか質問良いかぃ?別に答えたくなきゃぁ黙ったままで良い」
そう言って逸らされた顔を覗きこむ様幸の顔を下から覗きこんだマルコは、なに…?と小さく返ってきた返事にそんな幸から正面へと上体を戻すと手を組んだ。
「お前ぇの親は片親かぃ?」
「………まぁ」
自分の質問に暫し間を開けて頷いた幸に、そうかぃ、とだけ言葉を返したマルコは何処かぼうっとしたようにシーツを眺める幸を横目に見やると彼女が持っていた鞄へと視線を向けた。
「お前ぇが寝てる間に勝手にカバンを見させてもらったが……未成年が持ってちゃいけねぇもんが入ってたねぃ、ありゃぁどうやって手に入れた……?」
「…………」
そう言って、少しだけ声に批難の色を混じらせ自分へと視線を戻したマルコに、その視線から逃れるように抱えた膝へと顔を伏せた幸は、上から降ってきた溜息に小さく肩を震わせるとギュッと手を握りしめた。
鞄の中に無造作に入れてあった白い四角いケースに、ライターも一緒に入れてある煙草を思い出した幸は面倒なものを見つけられた、と小さく眉を顰めるとだんまりを決め込んだ。
「未成年特有の好奇心にゃぁ勝てねぇだろうが、今のご時世万引きなんてしてたらすぐに捕まるよぃ。もうあと2年もすりゃぁ法からも解放されんだ、もう少しぐらい待てねぇのかよぃ……」
「別に……万引きなんか、してない……。通りすがりのオッサンからパクってるだけ……」
そう、心外だ。とでも言いたげに声を漏らした幸にどっちもどっちだ、と呆れた様に言葉を返したマルコは膝へと顔を伏せる幸を横目に見やると一つ息を吐きだし宙を仰いだ。
「手癖の悪さは癖になる。早ぇとこやめるこったねぃ。タール数見る限り、まだ吸い始めてそんなに経っちゃいねぇだろぃ」
「………オッサンにはカンケーないじゃん」
ほっといて、と返ってきた言葉に幸へと視線を戻したマルコは、何かに耐えるようギュッときつく手を握りしめる幸を見やると、小さく溜息を吐きだしそんな幸の頭をクシャリと撫でやった。
「別に説教するつもりはねぇよぃ。馬鹿やれるのも学生のうちだけだ、今は存分にやさぐれてろぃ。後になってソレを引きずらなきゃぁソレはそれで良い笑い話になるしねぃ」
そう言ってクツクツと喉を震わせたマルコに、小言の一つでも言われるものだと思っていた幸は呆けた様にそんなマルコを見やるとキュッと唇を引き結んだ。
周りの大人と違い、怒るわけでも罵るわけでもない目の前の『大人』に、再び膝へと顔を伏せった幸は小さくウン…、と頷くと少々乱暴に撫でられた頭にきつく口を引き結んだ。

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