そして君に恋をする

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楓が東京に旅立った。
それを知ったのは部活中で、永四郎に楓は?と聞いたら東京に帰った。と言われた。
いつ帰ってくるのか聞いたらもう帰ってこないでしょうよ、なんてサラッと言われて……。
部活をほっぽり出して慌てて楓の所に行ったのに楓は不思議そうな顔をして3泊4日だよ。なんて言うし……。
永四郎は半分俺をからかって遊んでるんさぁ……。
正面の家を見ても楓の部屋にはカーテンが引かれてあって、当たり前だけど楓はいない。
ハァ、と溜息をつくと教科書で頭を叩かれた。
「ぃやーは勉強に集中しなさいよ」
さっきから永四郎が何回も数学の公式を教えてくれてんだけど……、さっぱり分からない。
今楓何してんのかなぁ、なんて全く別のことが頭の中に浮かぶ。
「木手、諦めろくにひゃーにぬーあびてぃも無駄やっさー」
慧君に勉強を教えていた寛君が呆れたように言う。
「裕次郎、気になるんなら電話するさぁ」
一人黙々と宿題を進めていた凛が思い出したように俺を見た。
そんな簡単に電話できるんだったらとっくにしてるってーの。
言葉に詰まる俺に皆の視線が痛い。
どうしたとか、へーくしろとか言われ携帯を押し付けられる。
「わーった、わーった!電話すれば良いんだろ?!」
半分やけくそになりながら電話を受け取ってコールする。
寛君や凛はそんな俺をニヤニヤと笑みを浮かべて見ている。
暫くコールが続く。
初めて電話するわけじゃないのに心臓がバクバク言ってる……。
『もしもし?』
受話器の向こうから楓のいつもどうりの声が聞こえホッとする。
後ろでは、お、出た出た。とか声がする。
「はいさい!楓!ちゃがんさぁ?」
『はいたい、裕次郎。ちゃがんさぁ。ぃやーは?』
出来るだけ普通に挨拶して聞けば苦笑した感じの声が返ってくる。
それにじょうとうじょうとう!と答えると後ろではいさーい、とかちゃがんさぁ?とか口を挟まれる。
その声にまた楓の笑い声が聞こえてきた。
『ぬーがらあいびーたんの?』
「ぬーも、ただちゃがんでやっちょるかねぇって思ってよー」
そう答えた俺に後ろで凛が笑った。
ぬーがよ、そりゃワンが気にしちょったんは認めるばぁよ、笑わなくたってゆたさんさぁ……。
『今ね東京の友達とテニスしてるの』
楽しそうな楓の声に気持ち落ち込む。
やっぱ向こうのほうがうむっさんのかねぇなんて思うと知らず知らずに溜息が漏れる。
ゆたさんさぁと返事を返すと受話器の向こうでクスクスと笑い声が聞こえた。

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