そして君に恋をする

□10
1ページ/2ページ



『……それで?今何の時間だと思っているんだ』
受話器の向こうからそれはもう怒りを含んだ声が聞こえてきた。
「だからごめんってば」
相手が出て最初にごめん、そしてさっきの言葉にもう一度謝る。
そして今向こうはきっと10分休みで、いや、こっちもなんだけどね。
移動教室なんだろう受話器の向こうから不二か誰かの『先に行ってるよ』という声が聞こえた。
『電話をしてきたということは何かあったんだろう?』
「うん、あのね、私やっぱテニス部マネージャーやることにした」
さっきの会話のあとHRが終了するとすぐに席を外して国光に電話をかけたのだけど、そう言った私に国光はただ一言そうか、と言っただけだった。
「え……なんか反応薄くない……?」
『なんとなくだが分かっていたからな』
そう言った国光の声はさっきより和らいでいて、良かったな、という国光にありがとう。と返す。
「楓!次は移動教室やくとぅ急ぐさぁ!」
「うわぁっ、ゆ、裕次郎君?!」
急に背後から声をかけられて思わず携帯を落としそうになる。
振り返るとそこには裕次郎君が私の分の教科書も持って立っていた。
「電話なんかあとでじょうとうさぁ。いかやーよ」
そう言って有無を言わさず歩き出そうとする裕次郎君。
「あ、国光?!またあとで連絡するから」
『いや、メールで構わない』
受話器の向こうで少し苦笑したように言う国光。
だってお前メールだとあまりにも短文すぎて寂しいんだよ。
一応分かったと返事を返せばじゃぁなと切られる電話。
それに小さく溜息を吐き出して携帯をポケットにしまった。
「『国光』ってたー()たーさぁ?」
「たぁ……?」
携帯をしまった私を見るとすぐに話しかけてきた裕次郎君に、自分の教科書などを受け取ってそう聞き返す。
「あぁ、誰って意味さぁ」
「あぁ、『誰』か。向こうの幼馴染」
その子もテニスやってるんだ、と言うと興味なさげにふーん、と返されてしまった。
「…………いきがぁ(彼氏)じゃねぇの?」
「『いきが』…….?」
ちょっと間をおいてから言われたその言葉に小首を傾げれば、そんな私を見た裕次郎君はあー…と言葉を濁した。
やんくるない(なんでもない)
「んー……?」
そう言ってカラリ、と笑った裕次郎君に、そんな彼をことさら首を傾げ見れば気にすんな、と言われてしまった。

次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ