そして君に恋をする

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部員達の掛け声が響く砂浜に、楓達が去っていった海岸を黙って見ていた木手は不意に自分の隣に立った人物に、ふと視線を横へとずらした。
「あの子気づいてたぜ」
そう声をかけた平古場に、自分と同じようにその場を後にする楓達の後姿を見やる平古場から視線を外した木手はえぇ、と声を漏らすと再び遠ざかる楓の背へと視線を戻した。
保健室へと向かう楓の背に、甲斐の隣を歩く知念を見やった木手は小さく眉を顰めさせると無言で眼鏡のフレームを押し上げた。
自分も、そして平古場もあの時知念が足を挫いたことは承知していて、けれども本人が何も言わない限りなにもしないのが比嘉中テニス部の方針で……。
だからこそ、甲斐と共に知念を連れて行った楓に平古場も、そして木手も少なからずその行動に驚いていた。
「……良いんじゃねぇの?あの子なら」
「…………………そうですね」
ただ黙って遠ざかる楓の背を見つめる木手に、そう声をかけた平古場は大分間を開けてのその返事に苦笑を漏らす。
木手と楓との間にいざこざがあったのは平古場とて甲斐から聞いていてそれも承知のうちでもその提案。
だからこそ、木手は楓のその洞察力を認めたくはないのだろう。
「それにしても……あぬひゃーふしがらんな……」
コレでこの件は決まりだな、とひっそりとほくそ笑んだ平古場は、話しを変えるようそう声を漏らすと先程楓が放ったボールが当たった木を振り返った。
そこには幹が可哀想なんじゃ、と思えるほどくっきりと残ったテニスボールの跡。
本来手元が狂ってできるようなものではないソレに、クツリ、と喉を震わせた平古場。
「あの子、かんなじ狙ったさぁ……」
「……でしょうね……」
そう言って面白ぇと零した平古場に、同じようにその木を見やった木手。
あの時自分が止めていなければ、確実に監督は楓のことを殴っていただろう。
楓の放ったボールに腰を抜かした監督を見たときは、正直言って木手も胸がスッとしたのだ。
比嘉中に集うテニス部員は、もとより小さな頃から仲の良かったメンバーばかりだ。
練習だからと言って邪険に扱われれば頭にだってくる。
だが木手も平古場も何も言わないのは、今監督がいなくなれば今年の大会に出られなくなるからだ。

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