そして君に恋をする

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「わっさん……」
「な、何で甲斐君が謝るの……?」
解けないよう確り包帯を知念君の足に巻いていれば不意にそう言った甲斐君が頭を下げた。
ソレにビックリして顔を上げれば、同じように頭を上げた甲斐君はどこか申し訳なさそうにこちらを見ていた。
「わんが怒らせたんだばぁ?」
「そうじゃないよ、だた……やり方がやっぱ好きじゃないなって……」
さっきの監督の行動や、それを見て見ぬフリをしていた木手君を思い出し、そうポツリと零す。
     テニスは楽しく!

それが大和部長のいつもの口癖だった。
規則や規律を破った部員には容赦なかったけど、ここまで酷かったことなんて一度もない。
それでもやっぱり『青学は青学』『比嘉は比嘉』の言葉が頭にチラついて、知念君の包帯を巻き終えた私はひっそりと溜息を吐きだしイスから立ち上がる。
処置の終わった手当てに、お礼を言う知念君にどういたしまして、と小さく笑みを返した私はイスに腰掛ける二人へと視線を落とした。
「ねぇ、二人はさ……今のテニス楽しい……?」
「「うむっさん……?」」
そう尋ねた私に声を被らせた二人は不思議そうに目を瞬かせると互いに顔を見合わせた。
「うむっさんかぁ……。わったーは勝つことだけが目標だからなぁ」
「やくとぅうむっさんって聞かれると正直わからんさぁ」
そう言って苦笑を浮かべた二人。
「勝つことだけ……?」
「全国にわったーの力を見せてやりたいんやっさー」
そう言ってヘヘ、とどこか楽しげに笑った甲斐君に『全国』と言う言葉に胸が高鳴った。
国光もよく言っていた。
『俺達の代では青学を全国に導こう』って……
だから、きっと、この人達もどんなに今が辛くても、テニスが大好きなんだろうなって思えた。
「そっか……。私、応援するよ」
「じゅんに……?あ、『マジで』?」
「うん、じゅんに」
わざわざそう言い直してくれた甲斐君に苦笑を漏らしコクリと頷く。
「だって、私もテニスが大好きだから!あぁ、二人ともそろそろ部活戻らないとあの怖い木手君に怒られちゃうね」
そう少しおどけるように言葉を返し、消毒液や包帯を棚に戻しながら二人を振り返れば、壁にかけてあった時計を確認した二人はあぁ、と声を漏らすと腰かけていたイスから立ち上がった。
「楓はどうするさぁ?」
「んー……私はこのまま帰るよ。戻ったら木手君に怒られそう」
丁度鞄もテニスバッグも持ってきているし。
それになによりコレ以上木手君と険悪ムードにはなりたくなし。
そう答えた私に、二人は苦笑を漏らすとあー……木手ね……。と呟いた
「じゃぁまたあちゃーさぁ」
「うん、また明日」
「「ゆくいみそーれ」」
綺麗に声を揃え手を振った二人に、保健室を出て行く甲斐君と知念君の背を見送った私はヨシ、帰るか。と声を漏らすとテニスバックを肩にかけ保健室をあとにした。

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