そして君に恋をする

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テニスコートへ行く途中畑があった。
なんか家畜小屋もあって豚とか鶏とかもいた。
比嘉中って、なんか凄い。
「顧問は早乙女晴美ってあびんやっさー」
畑に感動していた私を尻目に平古場君はそう説明してくれた。
『早乙女晴美』
なんて可愛らしい名前なんだろう。
きっと女の顧問なんだろうな。
スミレちゃんより若いかな?
そんなことを考えていればやっと辿りついたテニスコート。
もうすでに練習は始まっているみたいでラリーの音が響いていた。
「凛ー!遅いさぁ!って、あぃ?楓?」
平古場君の姿を見つけた甲斐君がコートからラケットをブンブン振りながら叫んだ。
そして隣に立っている私を見つけると不思議そうに小首を傾げる。
「わっさん、わっさん!楓、ここで待っちょるさぁ」
そんな甲斐君に同じように手を振りながら答えた平古場君は私の頭をポンッと叩くとコートに入って行ってしまう。
そして腕組をして平古場君を見下ろす木手君に両手を合わせ頭を下げた平古場君は顔を上げると何かを言って私の方を指差した。
それに平古場君に向けていた視線が私へと突き刺さる。見る、と言うより睨みつけるような木手君の視線に軽く会釈をしてみるけれど無視されて再び平古場君へと視線が戻ってしまった。
たーがやー(誰だお前?)?」
見学ぐらいさせてもらえるかなぁ、とか思いながらそんな二人の様子を見ていると後ろから声をかけられる。
それに驚いて後ろを振り返れば肉付きの良いお腹をした禿げ頭の髭面おじさんが立っていた。
その手にはテニスラケット………
え……、なんか……もしかしなくてもこの人って……
「あぃ、監督」
いつの間にかこちらに戻ってきた平古場君は私の前に立っているおじさんを見るとそう言った。
「か、かんっ……?!」
平古場君の言葉が信じられなくて平古場君の方を振り返るその隣には眉を顰め立つ木手君も。
木手君はそんな私には目もくれず監督の前へと歩み出た。
「監督、平古場君が連れてきたんですがね彼女が練習風景を見学したいそうですが、良いでしょうか?」
あえて『平古場』の部分を強調して言う辺りちょっと嫌みったらしい。
そんな木手君の言葉に監督は私へと視線を向ける。
「今から海岸行って練習だ。邪魔にならねぇところにいろ」
それだけ言って歩き出してしまった監督。
平古場君は少しホッとしたように息をつくと私の肩を叩いてそんな監督の後を追うよう歩き出した。
「くれぐれも邪魔だけはしないでくださいね」
不意にかけられた声に平古場君から木手君へと視線を向けると、とても迷惑そうに眼鏡を上げた木手君はそれだけ言うとさっさと歩きだしてしまう。
そんな彼の背を見てひっそり溜息を吐き出して他の部員に習うよう海岸へと向かった。
って言うか……『早乙女晴美』なんて言うからてっきり女だと思ってた。
可愛い名前なのに……なんで、禿頭のおじさんなんだ……。

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