そして君に恋をする

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家について部屋で寛いでいれば見計らったように鳴る携帯。
着信画面を見れば幼馴染からだった。
それに壁にかけていた時計を見ると6時を過ぎていて、ちょうど向こうも部活が終わったぐらいなんだろう。
そう思いつつ通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。
「もっしー」
『俺だ』
うん、画面にちゃんと名前が表示されてたからわかるよ。
そう言った幼馴染に、受話器の向こうからは自動車の走る音や足音が聞こえてくる。
多分相手は帰宅途中なんだろう。
遅くまでお疲れ様だなぁ、なんて思っていれば調子はどうだ、と聞かれて朝も電話したじゃん、なんて返す。
「あ、なんかねぇ、私の隣の席国光みたいな子だった」
『……ほぅ?』
「見た目だけだけどね。その人もテニスしてるんだってぇ。なんか、性格はひん曲がってそう」
そう言って笑う私に受話器の向こうから盛大な溜息が聞こえてきた。
『ひと悶着起こしたんだろう?』
「………だってさぁ、マネージャー馬鹿にするからさぁ…」
そう声に批難の色を混じらせた国光に、今日言われた言葉を思い出してそう小さく零せばやっぱりか、と呆れた声が返ってきた。
『転校初日からそれでどうするんだ。お前はもう少し考えてから行動しろといつも言っているだろう』
わかってますよそんなこと。
私だって最初は考えながら発言していたんだ。
………最後は頭にきて「コロネ」発言をしてしまったけれど……。
「今度からは…」とか「明日は…」とか何とか言っている国光に適当に返事を返しながら窓の外を見る。
もう大分日が暮れてきている。
窓の外に見える景色は東京とは全く違っていて、日本なのに別世界にいるようだった。
「ねぇ、国光……」
『以後気をつけ……、なんだ……?』
不意に話を遮った私に、国光の歩みが止まった音がした。
「同じ日本なのに、何でこんなに違うのかな……」
話し方や風習、街の景色まで独特で。
私が異人のような錯覚さえしてくる。
『郷に入っては郷に従え。いつまでも「東京の人間だから」では通らないぞ』
そう言ってまた溜息を吐きだした国光。
国光の言ってることはわかってる。
だから私だって沖縄に来る前に『沖縄入門』とか言う本を購入して少しでも言葉がわかるように勉強しているんだ。
楓、聞いているのか?と聞こえた声にうん、と返事を返すと再び受話器の向こうから溜息が聞こえてきた。
『今からそんなに弱気でどうする。これからは俺も、部長も、友人も、側にはいないんだ』
少しだけきつい物言いに、突き放すような言葉だけれどこれが国光の優しさだってことぐらい知っている。
「こっちでたくさん友達作るもん……」
そんな国光に苦し紛れにそう言えば、受話器の向こうからフッと笑い声が聞こえてきた。
『油断せずに行ってこい』
「おぅ」
じゃぁそろそろ切るぞ、と言ってすぐに切られる電話。
いつもの事と言えばいつものことなんだけど、もうちょっとなんかあっても良いんじゃなかろうか……。
あぁ、でも今日は珍しく長いほうだったな。
いつもなら必要最低限の会話だけで通話を終了させるような奴なんだから。
なんだかんだ言いつつ心配してくれる幼馴染に感謝しつつ私はベッドにダイブした。

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