灰色世界

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「は……?久遠さんを、怒らせた?」
よもやアノウタから相談事を持ちかけられようとは思ってもいなかった錦は、粗方の話をウタから聞くと彼女を怒らせちゃったみたいなんだ、と声を漏らしたウタにハタ、と目を瞬かせた。
事の発端は自分が原因であろうその久遠とウタとのいざこざに、いつでも飄々としている目の前のマスク屋を見やった錦は幼馴染の顔を思い出すと怒らせた、ね…と声を漏らしカップへと口を付けた。
「ただ、何で久遠さんが怒ったのか、その原因が分からなくて。ニシキ君は久遠さんの幼馴染だから、何か分かるかなって」
「あー……まぁ、何がっつわれてもなぁ……」
そう言って同じように珈琲カップに口を付けるウタに、全部だろ、と口から出かけた言葉を呑み込んだ錦は、久遠の事を試したウタに、信頼の証として彼女の一番大切にしているペンダントを『預かる』という名目で奪ったウタの行動を思い出すとひっそりと溜息を吐きだした。
「んー……やっぱり久遠さんのこと試すような事をしたのがいけなかったのかなぁ……」
「いや、やり方はどうであれウタさんのソレは間違ってはねぇよ。俺だって2、3度会っただけの人間、手放しで信用できるほど『人間』に心許してるわけじゃねぇからな。もし俺がウタさんと同じ立場だったら同じことしてたっすよ」
そう言ってハハ、と苦笑いを浮かべた錦に、そんな錦を見やったウタはそうなんだよね、と小さく零すとまた悩ましげに宙へと視線を投げた。
「やっぱりロケットの中を勝手に見たのがいけなかったのかな……?」
「……つか、多分ソレを無理やり取ったのがマズかったんだと思いますよ。中見たのも問題だけどな」
「う〜ん……、でも無理やりっていっても力づくとかじゃないよ?」
そんなにいけなかった?と小首を傾げたウタにあ゛〜、と言葉を濁らせた錦は言ってもいいものなのだろうか…とそんなウタから視線を逸らすと悩ましげに頭をかいた。
「他人からしてみりゃあんなもんの何が大切なんだって思うだろうけどよ、あの人にとって……アレは唯一の家族との思い出だからよ」
「?」
そう言って小さく溜息を吐きだした錦に、小首を傾げたウタはそんな自分を見やりまた言い辛そうに視線を逸らした錦を見て、目を瞬かせた。
「あのロケットの中の写真、見たんだろ。ウタさん」
「うん。女の人と男の人が映ってた。アレって久遠さんのご両親でしょ?」
そう言ってロケットの中の写真を思い出していたウタは、あぁ、と頷いた錦を見やるとそれがどうしたの?と再び小首を傾げてみせた。

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