灰色世界

□13
4ページ/4ページ

「あんま……こういうのは他人(ひと)の口から言うもんじゃねぇんっすけどね。もう随分と前に死んでんすよ、あの人の両親」
「へぇ、そっか。事故かなにか?」
きっとなんとなくは分かっていたんだろう、さして驚いたふうもなくそう返したウタに、ひっそりと溜息を吐きだした錦はまぁ…と相槌を返すとそんなウタから視線を逸らすよう、窓から見える通りへと視線を向けた。
「久遠さんが12、3ぐらいだった時に、火事でな。放火だったんだと。父親も母親もその火事で死んで、家も何もかも焼けて………唯一残ったのがあのロケットだけだった」
「………家族とのたった一つの思い出だったから、ソレを取りあげた僕が許せなかった」
あぁ、そうか。なるほど…と納得したように声を漏らしたウタに、けれどもやはりどこか不思議そうにカップを見つめるウタをチラリ、と見やった錦は困ったように頭をかくと一つ息を吐きだした。
「まぁ、だから怒ったんだろあの人も。きっと頭ン中じゃ理解してんじゃねぇっすかね、ウタさんの行動の意味も」
でも許せなかった、と苦笑いを浮かべイスへと凭れかかった錦に、そうだね。と少しだけ申し訳なさそうに笑ったウタはなぁ…とかけられた声に不思議そうに錦を見やった。
「なにか……するつもりじゃねぇよな、あの人に」
「しないよ、安心して。コレは僕個人が勝手に動いてる事だから"道化師(ピエロ)″は関係ない」
そう言って小さくその眉を顰めさせた錦に、キョトリと目を瞬かせたウタはふと、その口元に弧をかくと大丈夫、と小さく零してソッと珈琲カップへと口を付けた。
「なら……良いけどよ。あぁ、俺が話したってのは久遠さんには内緒にしといてくれよ。あの人怒るとクソ容赦ねぇからよ」
「うん、分かってる。ありがとうニシキ君、じゃぁ僕そろそろ行くね」
仕事の途中だったんだ、とイスから立ち上がり伝票を手に取ったウタに、ヒラリ、と自分に後ろ手を振りそのままお店を出ていくウタの背を見送った錦は冷めた珈琲に口を付けるとふと、その口元に弧を描いた。
「へぇ……あのウタさんがなぁ……」
珍しくも『人』に興味を示した同胞に、ただただ純粋に久遠の事を知ろうとしているウタの姿を思い出した錦はそう小さく声を漏らすとクツリと喉を震わせイスへと凭れかかったのだった。



例えば少しの変化


夢主とのことでモヤモヤとして仕事が手につかなくなるウタさんとかいたら良いな、って!


次の章へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ