黒崎一護中心地はここです。
□好きっス!黒崎さん!
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ジー…ツクツクツク…ボーシ!ツクツクボーシ!
「ツクツクボウシっスか。なんか雰囲気あるっスねえ…」
神社へ向かう道を、約束通り浦原は歩いていた。時刻は申の刻下がり、約束の時間には早いが、のんびり歩いているため、余裕があるといった意味では、なかなか悪くない時間である。
アスファルトの道をからころと音をならして、馴染みの下駄でゆったりと歩く。正面には自分の影があり、いつもとは違う影の形に、少しだけ躊躇う素振りを窺わせた。
ウィヨース、ウィヨース、ジー…。
雑に奏でられたアブラゼミの中に混ざってさえも、はっきりとわかるツクツクボウシの鳴き声。どこか呆けてそれを聞きながら、浦原はからころと、歩を進めた。
四時五十七分。程よく道草を食ったお陰で、浦原がつく頃にはすでに、そこに黒崎一護が待っていた。
「お待たせしましたか、黒崎さん?」
「いや、たいして待ってねえよ」
「そうスか?ならよかったっス」
一護は目の前の男が、本当に浦原喜助なのか少々疑った。決して悪い意味でそう思ったわけではなく、むしろ、その逆だった。
「…あぁ、たまには、粧し込んでみようかな〜…なんて、思ったんスけど」
自信なさげにどうっスかね、と上目遣いに尋ねてくる浦原に、一護は迷いなく、
「似合ってる」
と言った。
いつもの帽子は外しており、若干の癖は残るものの、解かして梳いた髪がふわふわと風に揺れていた。
身に纏う着物も上等なもので、色の白い肌に合う薄紫の地に、牡丹のような丸く可愛らしい花が濃い紫で描かれていた。
それだけでなく、見慣れた無精髭が綺麗に剃られていて、それが一護を一番狼狽えさせたものだった。髭ひとつ処理するだけで、かなり若く見える。
「なんか…すげー綺麗」
「そうっスか?ありがとうございます」
はにかんで笑う浦原の回りが心なしか、一護にはキラキラして見えた。熱くなった顔を隠すように浦原に背を向けた。
「行こうぜ。神社で屋台やってっから、なんか食わねえか?」
「え?でもお金なんて持ってきてないっスよ、アタシ」
「いいよ、奢ってやるから」
一護の申し出に嬉しさ半分、申し訳なさ半分に、浦原はこてんと首を傾げた。
「ほんとにいいんスか?」
「っあぁ、遠慮すんなよ」
時おり見せる彼の癖ではあったが、そのあざとさが見慣れない格好と相俟って、一護は心臓を高鳴らせた。
男相手に、しかも何百年と年の離れた男相手に起こす気ではないことは分かっていたが、それでも一護は…。
「な、だから早く行こうぜ」
「おっとと、そう急かさないでくださいよ、黒崎さん」
二人の夏祭りは、始まったばかりである。