黒崎一護中心地はここです。
□好きっス!黒崎さん!
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入道雲が高く天に伸び、深い青の空にくっきりと浮き上がっていた。発情期真っ盛りの蝉が大合唱を奏でる、この空座町の夏も、いよいよ終盤を迎えようとしている。
そんな空座町のとある一角、浦原商店の店主の浦原喜助は、5日前に取り決めた夏休みで店が開かないのをいいことに、店先の風通しのよいところに腰掛けていた。
傍らには年期の入ったかき氷機がおいてあり、一人もしゃもしゃとかき氷を頬張っていた。
「…はぁ」
退屈だ。口のなかが冷たくなったので、かき氷を脇に置いた。後ろ手を突いてぼんやりと店の天井を仰げど、浦原の心が晴れるわけでもない。
休みにはいる前は休みたい休みたいと思っていたのに、いざ休んでしまうと、存外退屈なのだと思い知る。
他の者は自分を置いてどこか旅行に出掛けていってしまい、当日寝坊した自分を恨めしく思う。
「はぁ……」
なにか面白いことでもないか。思案とも願望ともつかぬことをぼんやりと頭のなかで揺蕩わせる。思い付くのは、恋慕の意のある彼のことばかり。
チリンチリンと風鈴を揺らす温い風に当てられながら、怠惰の微睡みに落ちた。
「……さん、浦原さん、なにしてんだよ」
肩を揺さぶられる。はっと我に返り辺りを見回すと、辺りは橙色に変わりつつあった。
だいぶ眠りこけていたらしい。傍らにあったかき氷は、溶けて水になってしまっていた。
「珍しいな、アンタがこんなに無防備に昼寝なんて。…疲れてんのか?」
心配げに眉をハの字にするのは、辺りを染める夕焼けと同じ、いや、もっと鮮やかで輝いている、橙の髪をした青年。
突然の来訪者に、というか、バリバリ意中の彼がやってきたことに、寝惚けたままの浦原は酷く動揺した。
「お、おやおや、お久しぶりなのに変なところを見せてしまいましたね、黒崎さん」
「んなことねーよ」
黒崎さん、と浦原が呼ぶ彼は、名を一護という。どこか常に憂いを帯びた表情で、笑顔はあっても、アンニュイな雰囲気は拭えない。
浦原にとって、そこは利点である。しっとりとした儚い印象は、一護に対する庇護欲を強く掻き立てられるのだ。それは、浦原に限った話でもないが。
「ところで、アタシになにか用ですか?一人で来るなんて、よほどの用事だとお見受けしますが…」
浦原が問うと、一護は微妙に言葉を濁しながらも、曖昧に肯定した。
「その、な。浦原さん、明日暇か?」
「アタシですか?ええ、三日先まで店は休みですけど、それがどうかしましたか?」
「いや…気が向いたらでいいんだけどな。そこの河原の近くで花火大会があるの、知ってたか?」
聞かれてから、ああそんなのもあったな、とゆっくり頷く。しかし、一人でいくのも物寂しいし、何より思い人の伴わない夏祭りなど、無味乾燥とするのは目に見えて明らかだ。
いったい何を話したいのだろうと疑問に思う浦原に、前触れなく一護は核爆弾を投下した。
「その…一緒に行かねえか、花火大会」
チリンチリーン…。
風鈴が持たせた絶妙な、且つ、頭脳に関してはだいだいたる自信を持つ浦原の脳味噌を機能停止させた、一瞬の、後。
「もちろんっスよ!喜んで!」
心底嬉しそうな浦原の顔を見て、一護はほっとしたように破顔した。
「決まりだな。じゃ、明日は神社で待ち合わせな。五時ぐらいに来てくれればいいから」
「了解っス。いや〜、楽しみっスね、黒崎さん!」
「ははっ。はしゃぎすぎだろ、浦原さん」
かく言う一護も、どこかそわそわと落ち着かない様子ではあったが。