BLオリジナル小説
□白い悪魔は檻の中 2
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「やっ…やめなさいっ! さもないとっ……」
「さもないと、どうなるんですか?ほら、今だって押さえつけてる手を振り払うことさえできないのに。得物の大鎌がないとこんなにも非力なんですよ、先生」
シトラの手首にズチの手の圧力が一層かかる。
「いっ……あっ……」
あまりの痛さにシトラは顔を歪ませる。
ズチはその隙にシトラの頭上に両手を一纏めに片手で押さえつけると、余った方の手でスーツから注射器のような物を取り出した。
「なにをっ……」
「怖がらなくていいですよ。ただの筋弛緩剤ですから」
ズチはさらりと述べたが、シトラはほぼ身動きの取れない体を必死で動かし抵抗する。
しかしその努力むなしく、注射器の針はシトラの手首を無慈悲に突き刺し液が注入されると、彼の体を蝕んでいくのにそう時間はかからなかった。
神経がビリビリして全身に力が入らなくなる感覚にシトラの顔に恐怖の色が現れる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
シトラの額に汗が数滴滲んだ。
もう抵抗できないだろうと悟ったズチは、彼のYシャツのボタンを外しにかかる。
Yシャツから剥けでたシトラの肌は、艶(なまめ)かしく血管が透き通るような乳白色で、ズチは今すぐその柔肌を舐め回したくなる衝動に駆られる。
シトラの上下する胸に顔を埋(うず)め、ズチは言った。
「シトラ先生……誰からも好かれる人望がありながらそれに慢心しない謙虚な姿勢、さらに天使のような容貌と聖母を思わせる慈愛に満ちたあなたにずっと惹かれていました。いつの間にか僕はあなたを自分のものにしたい欲求にとり憑かれていた。こういう気持ちって何て言うんですかね……禁断の果実の味を確かめたいのと似ていますか、どんな味がするのか毎日妄想して、その想いはどんどん膨らみ、ある日その衝動に耐えきれず、手を出してしまうんです」
シトラは興奮し饒舌に語る部下に視線だけ向ける。
「禁断を犯す背徳行為に快感を覚え、後はどこから喰らいつくかじっくり吟味する……時間はいくらでもありますからね」
「……それが君の本音なんですね。これが、本当の君だったんですね」
シトラは声を震わせて言った。その目には涙が溜まっていた。
ズチは少し間をおき、埋めていた胸から顔を上げるとそのままシトラの顔に近づく。
「先生はボクを受け入れてくれますよね。いや、受け入れなくてもいいや。もうあなたは僕のモノなんだから」
まるで悪魔に取り憑かれているようだ、とシトラは思った。
いや、これが彼の本性なのだ。
そして彼をここまで追いつめたのは紛れもなく自分自身だと、シトラは自責の念を抱かずにはいられなかった。
シトラの眼から頬にかけて一筋の涙がつたう。
ズチはそれを器用に舐めとる。
「堪(たま)らなく愛おしいよ、先生」
彼は陶酔した表情で絶望に打ちひしがれるシトラを見つめるのだった。