BLオリジナル小説
□白い悪魔は檻の中
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「んぅ……」
とても永い、永い夢を見ていた気がしてシトラは目を覚ます。
ゆっくり上体を起こし、寝ぼけ眼(まなこ)で辺りを見渡す。
小さな机と椅子がセットで置いてあるだけの簡素な部屋だった。
どうやらシトラは見知らぬ部屋の見知らぬベッドで寝ていたらしい。
ここまでに至った過程を思い出そうとするが、白いもやがかかったかのように頭が上手く回らない。
―――突然予期せずドアが開いた。
「あぁ、起きていましたか。先生」
そこから現れたのはシトラがよく知る人物。
「……ズチ君」
「そんな目で見つめないでください。……色々シたくなっちゃうでしょ」
やっと思い出す。
シトラはかつての部下だった佐那木(さなぎ)ズチに拉致されたのだ。
「私をどうするつもりですか」
「はは、つまらない質問ですね。さぁ……どうしましょうか」
ズチは舐めるようにシトラを観察する。
そして獲物を捉えた獣のようにゆっくり近づいてくる。
決して広くないこの部屋は、ドアからベットまでの距離は僅か数歩で、あっという間に間合いを詰めベッドに腰を掛けてきた。
「寒いですか? 震えてますよ。そうだ、僕が温めてあげる」
シトラに向かって両手を広げる。
「ちゃんと質問に答えてください! こんな事して君に何のメリットが……?」
ズチは両手を下ろし、引き笑いした。
「メリットねぇ……そんなつもりで僕は先生を拉致したんじゃないですよ」
「僕の望みはただ一つ……あなたを骨の髄までしゃぶり尽したい」
彼の恍惚な表情の中に狂気を確信したシトラは反射的に精一杯の力で彼を押しのけ、ドア目がけて走った。
ドアノブに手をかけた直後、真後ろから尋常じゃない威圧感を感じ一瞬怯んだシトラに、彼は抱きついてきた。
「逃がしませんよ。絶対」
シトラの耳元で狂気を帯びた声で囁き、吐息をかける。
「あぅっ……」
思わずシトラは嬌声を上げてしまった。
「今の囀(さえず)り、凄く良かったです。ぞくぞくしました」
「ズチ君、いい加減にっ……あぁっ!」
ズチはそのままシトラを軽々と持ち上げベッドに投げ倒し、直ぐに起き上がろうとするシトラの上に馬乗りになり、もがく手を強く掴んだ。
「お願い、暴れないで。おとなしくしてください。先生をなるべく傷つけたくない」
ズチは優しい声を投げかけるが、目は笑っていない。
力の差は歴然だった。