LONG
□ep17
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「おはよう」
登校早々、昇降口で徹に声をかけられて分かりやすく驚いた。
徹に気持ちを告げられて以来、言葉を交わすのは今日が初めてだ。
挨拶くらいは返すべきだろう、今はただのクラスメイトなんだから。
「お、はよ…」
学校中には破局という噂が一気に広まっていたこともあり、わたしたちが言葉を交わす様子を周囲は興味津々に見つめている。
「今日、暇?」
「え?」
「月曜だから、俺部活ないんだよね」
徹のその言葉で、わたしが連想したのは以前の関係だった。
バレー部の練習が休みになる毎週月曜日は、いつも2人でいたから。
「徹、わたし飛雄くんと付き合ってるんだよ」
「知ってるけど」
「じゃあ、」
「そんなの俺には関係ないし」
つくづく勝手な男だ。
教室へと向かう間も、わたしの隣をついて歩く徹。
「徹と2人では会わないよ」
「どうして?」
どうしてって…。
「飛雄に悪いから?そんなに飛雄が好き?」
「彼氏なんだから当たり前でしょ」
「ふーん」
なにが言いたいの。
徹の真意が読めずに、少しずつイライラしだしていた。
まだ時間が早いこともあり、生徒の数はまばらだ。
「じゃあ、俺のことは?」
だけど、徹の声がこんなにも響いて聞こえたのは人が少ないからじゃない。
まるで心臓を一突きされたような感覚がわたしを襲った。
「…」
「俺のことは好きじゃないの?」
「…」
「嫌いになった?」
「…徹への気持ちは、もう残ってない」
ずっと見て見ぬふりをしてきたものを、徹に見透かされたような気分だ。
飛雄くんにどんなに大切にされても、飛雄くんとどんなに肌を重ねても、結局、わたしの中からこの男は消えてはくれない。
最低だ。
「徹のことは、」
わたしはもう、飛雄くんの彼女。
飛雄くんにも嫌われたくはない。
「過去」
わたしは足早に階段を上りきると、1人で教室に入った。
その後すぐに徹も教室へとやって来たが、どんな表情をしているか気にはなっても確認することはできなかった。
恋愛はタイミングだ、なんて使い古された言葉が身に沁みる。
徹が彼女ではなく、わたしを選んでくれていれば、わたしは飛雄くんを傷つけずに徹の隣にいられたのに。
なんて自分本位な考え方だろう。
こんなことを思う自分が嫌い。
「…徹」
わたしは声にならない声で呟く。
「好きだよ」
(2015.01.28.)