LONG

□ep16
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月曜日

今日は体育館に点検作業が入るとかで、部活が休みになることが伝えられている。

合宿から帰ってきたばかりで疲れもあるし、昨日日向とやり合ったことでイライラしていた。

身体を動かすことでしかそれを解消することができない気がして、自宅に回覧板と共に回ってきていた『ちびっこバレーボール教室』のチラシを思い出し、会場まで足を運んだものの、ここに来て俺はどうする気だったのだろう。

会場となった体育館の外は、ガキで賑わっていてどうやらイベントは終了した模様。

自分がバレーボールと出会ったのも、この場所だった。



「徹!サーブ教えてくれよ!」

「ちょっ!?まず呼び捨てやめようか」



この声は…



「ア゛ッ?」

「ゲッ!!!」

「及川さん」

「飛雄!!!」



甥っ子の付き添いで来たらしい及川さん。

及川さんは敵である以前に、中学の先輩で、尊敬するセッターの一人だ。

今、自分の中にあるモヤモヤしたものを取り除くために、話を聞いてほしかった。



「及川さん あの」

「嫌だね!バーカバーカ!」



まだ何も言わないうちに拒否してくるあたりは、数年前から変わっていない。



「…お願いします。話を聞いて下さい」



頭を下げて頼んだ上に、少し屈辱的な写真を代償にして、ようやく話を聞いてくれる体勢になった。



「―で、何。俺忙しんだよね」

「カノジョにフラれたから暇だってゆったじゃん!」



…彼女に…振られた?



「猛ちょっと黙ってなさい!!」



及川さんの彼女は一度見たことがある。

IH予選の行われた仙台市民体育館。

俺の隣にはなまえさんがいて、そして、及川さんを想って泣いていた。



「…別れたんですか」

「飛雄には関係ないよ」



なまえさんを散々傷つけた結果がコレかよ。

こんな話を聞いたら、なまえさんはやりきれないだろう。



「…そのこと、なまえさんは」

「知ってるよ。言ったからね」

「!」



なんで、そんなことっ…!



「あんたはどれだけなまえさんを傷つければ…!」

「たくさん傷つけばいい」

「及川さん!」

「なまえは傷つけば傷つくほど、俺への気持ちを思い知るんだからさ」



異常だ。

この人を今日このときまで、こんなに怖いと思ったことはない。



「俺はなまえが好きだよ」



俺の目を真っ直ぐと見つめる及川さん。

挑戦的な目を向けられて、負けるわけにはいかないと睨み返す。



「なまえさんは、俺の彼女です。もう諦めてください」

「それはなまえが決めることで、おまえが口出ししていいことじゃない」



気がつけば、奥歯をギリギリと噛み締めていた。

やっと手に入れたあの人を、及川さんにかっさらわれるなんてごめんだ。



「なまえが俺を選んだら、そのときは諦めてよ」



なまえさんが及川さんを選んだら…?

その言葉は、急に俺を不安にさせた。

及川さんを想って泣く姿を見たから、どれだけ及川さんのことが好きだったか知ってるから。

それがなまえさんが望む未来なら、俺が身を引くべきなのかもしれない。

それでも、俺は…。



「渡しません、絶対に」



及川さんにそう告げる以外にはないんだ。



(2015.01.27.)

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