LONG

□ep12
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トビオくんと恋人同士になったものの、高校の違うわたしたちに会う時間はほとんど無かった。
トビオくんが部活で忙しいときは、受験勉強に専念して過ごす。
高校3年の本分は勉強なのだから、暇つぶしにしてしまっているのは間違いだけど、寂しさを紛らわすのにはちょうど良かった。
青城の名門バレー部の部員はきっと推薦の話がくるだろうが、一般生徒はそうはいかない。
わたしも当然、一般受験を予定していた。
国立に合格する自信も頭も始めからないので、私立大学を志望校に上げている。



「及川、この問題解いて」
「はーい」



徹とは目も合わさない日々。
わたしは教壇に上がり黒板に数式をつらつらと書いていく彼から視線を逸らした。



「正解。戻っていいぞー」
「はーい」



思えば、徹と離れてから随分と時間が経った。
あれ以来、全く言葉を交わしてはいない。
徹とエリカさんはきっと上手くいっているのだろう。



「あ、そういえば今日保健委員は仕事あるから放課後職員室に来てくれって、保健室の先生が言ってたぞ」



自分の席に戻ろうとする徹に声をかけた先生の視線は、次にわたしに移される。



「みょうじも」



すっかり忘れていた。
わたしと徹は共にこのクラスの保健委員なのだ。
わたしは委員など面倒だからと避けたがったが、徹が何か一緒にしようと立候補。
バレー部主将のくせに仕事を増やしてどうするのだと呆れたが、特に仕事はないという保健委員に落ち着いたのでしぶしぶ了承したのだ。
放課後までの数時間、わたしは徹とどう接するか考えるので頭をいっぱいにしていた。



「なまえ、行こう」



HRを終えると、徹がわたしの元までやってきて声をかける。
わたしは少し上ずった声で返事をすることしかできなかった。
職員室に連れ立って、任された仕事はアンケートのデータをまとめるというもの。
面倒くさいことこの上ない仕事に辟易したが、徹と2人きりの空間に耐えられそうもなく1人でやることを申し出る。



「徹は部活に行きなよ。やっておくから」
「この量だよ。俺もやる」



部活に行ってくれた方が有難いんですけど、なんて言えるはずもなく。
一つの机に向かい合って座り、アンケート結果をまとめる。



「…なまえ、どこ受験するの」



沈黙を破ったのは徹の方だった。
重苦しい空気は耐え難く、わたしもなんとか話題を探してはみたものの見つからず、黙々とアンケート用紙とにらめっこを続けていた。



「…あ、M大受ける」
「そっか」



徹の綺麗な指がアンケート用紙を重ねていくのを視界の端に入れながら、自分の作業を進める。



「…徹は?」
「俺、推薦もらえるとこ。」



さすがだな。
大学でもバレーを続けて、いずれは実業団にでも入るのだろうか。



「飛雄とは…どう?」
「あ、うん…まあ、普通に…」



まさかトビオくんとのことを聞かれるなど思ってもみなかったわたしは、当たり障りのない返事をすることで誤魔化した。
そして、徹はどう?と口にしてから後悔。



「別れた」
「…え?」
「エリカとは別れたよ」



どうして…?
俯き加減の徹の表情は全くわからなくて、彼の次の言葉を待つ。
わたしと浮気しているときは、あんなに上手くいっていたはずの彼女と別れたなんて。



「全部、始めから俺がバカだった。俺は多分ずっと」



俯いていた徹が顔を上げ、視線がぶつかる。



「ずっと、なまえのことが好きだった」



(2014.12.27.)

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