LONG
□ep11
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今日はトビオくんが東京から帰ってくる。
夏休み前の東京遠征後一度宮城に戻り、夏休みに入ってから再度長期東京遠征に入った烏野高校男子バレー部。
合宿のメニューが大分ハードなようでトビオくんから連絡がくることはなかったが、たまにこちらからメールを送ると返信が来た。
(明日戻ります)
昨日届いたメールを何度も見返す。
今日、少しだけでもいいから顔を見たい。
だけど、トビオくんの疲労を考えるとそんなことは言い出せなかった。
わたしはどこかで偶然会えることを期待して、近所をグルグルと歩いて回る。
(今、烏野つきました)
(おかえり)
(今、何してますか?)
(さんぽ??)
トビオくんを探して、町内をグルグルと歩いているなんてそんな恥ずかしいことは言えない。
駅前のカフェでいつものカフェラテを頼み、いつもの窓際の席に座って、駅から出てくる人をボーっと眺める。
「なまえさん!」
背後から突然声をかけられ、身体が思い切り跳ねる。
「ト、トビオくん!」
「帰ってきました」
「おかえりなさい」
いつの間に店に入ってきたのか、わたしの隣りに腰掛けるトビオくん。
「俺のこと、待っててくれたんですか?」
「え」
「違うんですか?」
「ち、違わないけど…」
この間から、完全に彼のペースにはまってしまっていることに気付いていたが、それでも抜け出せない。
言葉に詰まってしまい、何とか話題を探す。
「あ、これ…飲む?」
「ウス」
わたしの手元にあったカップを自分の方に引き寄せると、ストローに口をつけたトビオくん。
「甘い…」
「ふふっ」
顔をしかめるトビオくんが可愛くて、つい笑みがこぼれる。
トビオくんといる時間がこんなにも心地良い。
安心・幸福。
身体の真ん中がぽかぽかと暖かい。
「出ましょう」
トビオくんに促され、飲みかけのカップを手に店を出る。
段々と暗くなり始めた空の下、並んで歩くのはとても久々な気がして、少し緊張した。
「あのね、徹とは終わったから…」
「え?」
「ちゃんと話したの」
一方的に伝える形にはなってしまったけれど、あれから徹が声を掛けてこないことから理解してくれたのだと思う。
「徹とは間違えちゃったけど、でも…んっ」
「なまえさん!好きです!」
「トビオくん…まだ、キス…なんかしちゃだめだよ」
「まだって?」
「わたしと付き合ってくれる…?」
この数週間、トビオくんに会える日を待ちわびている自分がいた。
いつの間にかわたしの中にすっかりと入り込んでしまった彼を好きなのだと自覚するのに時間はかからなかった。
トビオくんは返事をする代わりに、わたしのことをきつく抱きしめて、もう一度キスをした。
「もう、付き合ってるからいいんですよね?」
「うん、いいよ…」
IH予選の時よりも少しだけ逞しくなったトビオくんに身体を預けると、そこはとても温かかった。
(2014.12.27.
2016.9.6.修正)