LONG

□ep10
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徹を失うのがあんなに怖かったのに、いざ別れを告げるとアッサリとしたものだ。
徹と以前のように接することができないのは辛いけれど、散々エリカさんとの仲を邪魔していたことを考えれば、身を引くのは当然で。
数日の間、学校にいるとき以外はひたすら泣いた。
あの日以来、徹がわたしに声をかけることはなく、学校中に瞬く間に破局の噂が広まり、元々付き合ってないし、とこぼしたい気持ちもあったけれどジッと耐えた。



そんな時だった。



(東京に行ってきます)



突然意味の分からない宣言メールがトビオくんから届く。
言葉足らずのそのメールに、ついすぐさま返信。



(なんで東京?旅行?)



夏休みを目前に控えた休日のことだった。



(遠征合宿です)
(そっか。熱中症に気を付けて、がんばってね)
(はい)



徹と離れることを決めてから、臥せっていた気持ちが少しだけ和らぐ。
そこでふと思い出したのは、部室でわたしが徹についた嘘。



『トビオくんと付き合うから』



そんなありもしない事実が徹にバレてしまうのではないかと、急に焦りだす。
徹がトビオくんに連絡することはないだろうし、トビオくんも今は宮城にいないからとりあえずは大丈夫だろうけど…。



「あんな嘘、つく必要無かったのにね」



あまり考えの読めない表情。
怒ったように少し突き出した唇。
綺麗に整えられた爪。
弟みたいに思っていたトビオくんの力はちゃんと強くて、少し戸惑った。
今、宮城にいないんだなあ…。
いつもみたいに偶然会うことも、今はできないのだと思うと少し寂しくなる。
今まで頻繁に会っていたわけでもないのに、数日の間は全く会えないという事実が、余計に彼を思い出させる。
再び気分が落ちてきたので、少し外の空気を吸おうと近所を歩くことにした。
日が落ち初め、空がオレンジ色に染まっている。
そばの公園の前を通り、トビオくんに助けてもらった路地を抜け、キスされた道までもう少し…。



「あれ、みょうじ?」
「岩泉くん」



そこで遭遇したのは、部活帰りと思しき岩泉くん。
つい徹が一緒にいるのではないかと、身構えてしまったのを彼に読み取られてしまった。



「アイツは一緒じゃねぇよ」
「え。あ、うん…。」
「別れたんだってな」



徹、話したんだ…。



「影山と付き合うって」



そんなとこまで話さなくていいのに。



「あ、それは…そのウソ…っていうか」
「え?」
「とっさに口から出ちゃって」
「そうか」



ふっと笑った岩泉くん。
彼はきっと徹に黙っておいてくれる。



「まあ、でも影山と付き合うのが正解かもな」
「え?」
「アイツはアイツで面倒くさそうだけどな。鈍そうだし、人の機微がイマイチわからなさそうだし」
「確かに」
「俺はみょうじのこと…応援してる」



いつも徹に見せる怒り顔しか見ていなかったせいか、穏やかな表情の岩泉くんは新鮮だ。
優しい目をした彼に、いつぞやの助言のお礼を言う。



「ありがとね」
「お?」
「…なんでもない」



岩泉くんがいなかったら、きっとわたしたちは間違ったままだった。



(2014.12.19.)

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