LONG
□ep9
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火曜日。
IH県予選は昨日で終了しているはずなので、徹は登校してくる。
土曜日以来、初めて顔を合わせることに緊張しながら教室に入れば、すでに徹は登校していて、自分の席に着いてノートを開いていた。
もしかしたら、徹はもう話すことは何もないと思ってるのかな。
この間、エリカさんと鉢合わせしたのが終わりの合図だと。
昼休みを迎えるまで、徹と一言も言葉を交わすことなく平穏に過ごし、今日はもう何もないかもしれないと安心したのも束の間。
「なまえ…ちょっと…」
昼休みに入ると同時に、徹はわたしの席までやって来て、わたしの返事も聞かずに腕を掴んで歩き出した。
「ちょ、徹…待って…」
徹はズンズンと足を進めていく。
昇降口を出るのに靴を履き替えることもせず、向かったのは男子バレー部の部室だ。
「徹、手…痛いよ」
徹は部室に入るや否や、わたしをドアに押し付けてキスをした。
「…んっ!」
どうして…?
徹はまだわたしとの関係を続ける気なの?
少し苛立った様子の彼の肩を強く押して、身体を離す。
「やめて…」
初めて彼を拒絶した。
いつもと違う様子の徹を少し怖く感じた。
昨日のIH予選決勝、因縁の相手・白鳥沢に敗戦したことはすでに学校中に広まっている。
そのせいでイラついているのだろう。
理由がわかっていても、強引な行為に戸惑った。
今まで、どんなことがあっても徹にそんな風に触れられたことは無かったから。
「わたし…トビオくんと付き合うから」
気が付けば、そんなでまかせを口にしていた。
ハッとして顔を上げると、少し悲しそうな顔をした徹。
「ご…めん、なまえ。俺…今日ちょっとイライラしてて…」
「ううん…。」
額に手を当てる徹。
試合に負けてどんなに悔しいか、わかるよ。
中学の頃からの因縁の相手だって言ってたもんね。
本当はおつかれさまって言って、抱きしめたい。
だけど、それはわたしの役目じゃない。
「今まで、エリカさんとの仲、邪魔してごめんね」
「なんでなまえが謝るの。俺が…!」
「もうこんなことやめよ。わたしも…限界」
「なまえ…」
そんな悲しい顔しないで。
「徹のこと、好きだったよ。」
「待って」
「バイバイ」
逃げるように部室を後にする。
徹が追いかけてくることは無かった。
これで本当に終わったんだな…。
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なまえがいなくなった部室で一人、立ち尽くすことしかできなかった。
彼女の気持ちをずっと知っていながら、答えなかったのは自分だ。
当然の結果だと頭ではわかっているのに、気が付けば暖かな滴が頬を伝っている。
「俺、勝手すぎ…」
失ってから気付く、なんてよくある言葉。
なんて馬鹿なやつらだといつも見下していたのに。
なまえに別れを告げられ、心にぽっかりと空いた穴に気付く。
俺…ほんとになまえのこと好きだったんだ。
(2014.12.19.)