LONG

□ep8
1ページ/1ページ


日曜日、徹やトビオくんにどんな顔をして会えばいいのかわからず、体育館へ赴くことはできなかった。



そして、月曜日。
学校に行けば嫌でも徹と顔を合わせることになるため大分身構えて登校したが、それも杞憂に終わる。
男子バレー部は公欠となっていた。
日曜日の試合、勝ったんだな…。
徹がどんなに全国大会に行きたいかは解っているつもりだ。
今日はきっと因縁の相手白鳥沢との試合。
心の準備ができていなかったわたしは、少しホッとしながら1日を過ごした。
青城が勝ったってことは、トビオくんは…。



「大丈夫かな…」
「どうかしたの?」



机に突っ伏すのと同時に頭上から聞こえた声。
顔を上げずとも声の主はわかった。



「ユリ…どしたの?うちのクラスに来るなんて珍しいね」



隣りのクラスのユリだ。
中学時代からの親友で、彼女にだけは徹とのことも打ち明けていた。



「バレー部公欠で及川くんがいないからね」



ユリは徹のことをあまり好いていない。
元々モテる男子を好かない傾向にあるが、わたしとの件が余計にその気持ちを大きくしている。



「今日、予定ないでしょ?久々にあそぼーよー」
「あ、うん。」
「参考書買いたいから本屋も付き合ってくれると助かる」
「わたしも勉強しなきゃな」



放課後、制服のまま本屋に立ち寄り参考書を物色した後、チェーン展開するカフェへと入った。
土曜日の出来事をすべてユリに打ち明けると、ユリはうーんと一度考える素振りをして口を開く。



「わたしの及川嫌いを抜きにしてもさ、なまえはトビオくん?といっしょにいた方が幸せになれると思うよ。そりゃあ、及川くんが彼女と別れるっていうなら話は別だけど。」
「でも、トビオくんは弟みたいな感じっていうか…。」



人肌恋しいとかそんな理由で徹といるわけじゃないんだよ。



「好きって言ってくれて純粋に嬉しかったけど、今までそんな風に見てなかったから…」
「じゃあ、今からゆっくり考えればいいんだよ。ちょうどいいことに、彼も長期戦覚悟って言ってくれてることだし」
「うーん…」
「真剣に気持ち伝えてくれた人に、真剣に返さないのは失礼だよ」
「そ、だよね」



手元のカフェラテを一口飲み、ボーっと窓の外に視線を移す。
道路を挟んだ反対側に見慣れた姿。
横断歩道で信号待ちをしていたのは話題の渦中の人物。
突然のことに驚き、ゲホッと咽る。



「なまえ?」
「あ、あれ…トビオくん…」
「え!?どれ!?」



わたしの指さす先をじっと見つめたかと思うと、ユリは慌てて店を飛び出した。
窓越しに見た光景は信じられないものだった。
ユリは信号を渡ってくるトビオくんに話しかけると、店内にいるわたしを指さす。

ちょっと待ってよ!
まだ心の準備が!!



「なまえさん…」
「トビオくん…おつかれ」
「じゃあ、なまえまた明日ねー」



なんて親友だ!
こんな状況でトビオくんだけ残して帰るなんて!
先ほどまでユリが座っていた席に腰かけると、トビオくんは俯くわたしの顔を覗き込んだ。



「俺のこと、避けてます?」
「え!?」
「俺、及川さんに対抗して告白…とかそんなことしないっスから」
「そ、れは…わかってるつもりだけど…」



トビオくんには徹と別れるときっぱり宣言したくせに、まだ連絡をしていない自分がなんだか中途半端な人間に思えて仕方ない。
カップを伝う水滴が掌に広がって気持ち悪い。
湿った手を何度か握りこみ、席を立った。



「出ようか」
「ウス」



後ろをついて歩く存在にどこか緊張している自分。
何も言わない彼が、今何を考えているのかと頭の中を巡らせたがわかるはずも無かった。
とにかく、今わたしが思っていることを伝えてみよう。



「あのね、トビオくん…」
「はい」
「わたし、正直トビオくんのこと弟みたいに思ってたから、大分ビックリしてて」
「…」
「だけどね、あの…好きだって言ってくれて嬉しかったの」



だから、ちゃんとトビオくんのこと考えてみるから。
そう告げようとしたそのとき。
突然腕を掴まれ後ろに引かれたかと思うと、唇になにかの感触があった。
そして、額に触れたのはトビオくんの前髪。



「ト、ビオ…く」
「…これで男として見てくれますか?」
「な、」



今、キスした…?



「別に誰にでもするわけじゃないですよ」
「わ、かってる」
「コーヒーの味がしました。」



トビオくんのその言葉に本当に彼とキスをしたのだと思い知らされ、カァッと顔が熱を持つ。
今更キスをされたくらいで動揺する自分がなんだか不思議で、怒ることも忘れてしまう。



「好きです」
「し、知ってる」
「帰りましょう」
「…うん」



完全にトビオくんのペースにはまってしまい、複雑な気分だけど、悪い気分ではなかった。



(2014.12.11.)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ