LONG

□ep7
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「なまえさんのことが好きです」



気持ちを伝えることに、躊躇いは無かった。



IH予選3日前。
帰宅途中に偶然、岩泉さんと会った。



「よ」
「岩泉さん」



途中まで帰り道が一緒ということもあり、離れて歩くのも不自然な気がして並んで歩いた。
今日は及川さんは一緒じゃないんだな。



「あの…なまえさんって、及川さんの彼女じゃないんですか?」



話題が無かったから聞いただけ、深い意味は無い。
なんて、無意味に心の中で唱えながらの質問。
岩泉さんは、一瞬俺の口からなまえさんの名前が出たことを不思議に思ったようだが、アッサリと質問に答えてくれた。



「ちげぇよ。」
「及川さんに彼女って紹介されたんですけど…」
「…みょうじはわかりやすく言えば浮気相手だよ」



う、浮気…?
自分とは全く縁の無い言葉が出てきたことに驚いた。
岩泉さんは少し苛立った様子で、及川さんとなまえさんのすべてを教えてくれた。



「…なんでそんなことするんですか?」
「知らねえよ」
「彼女がいるのに、なまえさんとも、とか…意味わかんないっす」
「俺もわかんねえよ」



そんな適当な付き合い方されてるのに、どうしてなまえさんは及川さんといっしょにいるんだ。



「影山、みょうじのこと好きなのか?」
「え!?」
「隠さなくていいよ」



バレてるのか…?
いつの間にバレたのかわからない俺は、一瞬足を止めた。



「みょうじはおまえといっしょにいた方が幸せになれる」
「でも、なまえさんは及川さんのこと…」
「お前が何とかしてやれよ。いい加減見てらんねぇんだよ」



どうして岩泉さんがこんなに辛そうな顔をするのか、今の俺には到底わからなかった。



翌日、俺はなまえさんの家に直接赴き、試合に来てもらうという約束を取り付ける。
なまえさんは笑っていたけど、きっと本当の笑顔じゃない。
俺がなんとかしたい。



そう思った故の、とっさの告白だった。
なまえさんが泣いてる。
及川さんのことを想って。



「なまえさん、もう泣かないでください」



女の人に目の前で泣かれるという経験が無かったので、正直対応に困った。
及川さんならきっと手慣れた感じで…。
いや、及川さんと自分を比べたところで何にもならない。



「わたし、徹とは別れるから…」
「別れられるんですか?」



思ったことをそのまま口に出してしまうクセを治そうとこんなに強く思ったのは初めてだ。
俺の言葉になまえさんは一瞬悲しそうな顔をして、涙を堪えるかのように唇を噛んだ。
しまった…。



「別れるもん。エリカさん、優しそうな綺麗な人だった…。わたしが邪魔しなければ、二人はきっと幸せになれる」



なまえさんの幸せは?
俺は及川さんも及川さんの彼女もどうでもいい。
なまえさんさえ幸せになってくれれば。



「いいんですか?」
「もう、今更いっしょにいても…わたしは多分徹の前で笑えない」



そんなのいっしょにいる意味ないでしょ?
自虐的に笑う彼女が痛々しくて、気が付けば彼女を引き寄せていた。



「俺の前で無理しないでください」
「ううん、もうたくさん泣いたから」



大丈夫、そう言って前を向くなまえさんの目はやっぱり寂しそうだった。



(2014.12.11.)

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