LONG

□ep4
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(ねえ、今から家来ない?)
(今日は疲れたからやめとく。ごめんね)
(大丈夫?具合悪いの?)
(そんなんじゃないから、気にしないで)



最近のわたしたちはずっとこんな感じ。
徹のことは今でも大好きだけど、岩泉くんの言葉がずっと引っかかっている。

わたしだけを見て欲しい。
徹の一番になりたい。

叶うはずのない願望ばかり募らせることに、少し疲れたのかもしれない。
握っていた携帯をベッドの上に投げる。
それと同時にインターホンが家中に鳴り響き、突然ことに驚いて身体が飛び跳ねた。
外はすでに真っ暗で、来訪者が誰なのか全く予想もつかない。
だから、インターホンに映し出された彼の姿を見たときは驚いた。



「トビオくん!」
「…あ、ウス」
「部活帰り?どうしたの?」



扉を開ければ、いつものジャージ姿の彼が玄関先に立っていた。



「おつかれさま」
「あの…土曜日のIH予選、観に来てくれませんか」
「突然だね…」
「すんません」



少し恥ずかしそうに目を逸らすトビオくんがかわいくて、つい意地悪をしたくなる。



「メールでも良かったのに」
「…っ」
「部活の後だからきついでしょ?」
「いや、あの…メールとか苦手でっ…!」



あーそんな感じ。
携帯画面とにらめっこするトビオくんを想像したら、なんだかおかしくて笑えた。



「?」
「土曜日の試合だよね」
「はい」
「応援に行くね」
「あ、アザっす!」



ガヴァーッ!なんて効果音のつきそうな勢いで頭を下げるトビオくんは、やっぱり根っからの体育会系だ。
なんだか弟ができた気分で、一人っ子のわたしとしては少しくすぐったいものがあった。



「あ、ごめん、玄関で。上がってく?お茶くらい出すよ」
「…いえ、今日はこれで帰ります」



ペコッと頭を下げて、あっさりと帰ってしまう彼を少し寂しく思いながら自室に戻る。
先ほどまでの孤独感はスッと薄れ、土曜日を楽しみにしている自分がいた。
土曜日に済ませようと思っていた課題を前倒しで進めることにして、机につくと同時に再び鳴り響くインターホン。

トビオくん…じゃないよね?
宅配が来る予定も無いし…。

音を立てないように階下に降りて、インターホンの画面を確認する。

ウソ…なんで…。



「徹?どうしたの?」
「え、どうしたのって…心配して見に来たんだけど」



次の来訪者は徹だった。
真っ白なジャージを着て、額には少し汗が光っている。
走ってきたのだろうか。



「大丈夫だって言ったのに」
「最近元気ないしさ」



徹は玄関先で帰るということはなく、すんなりと部屋に上がった。
何度も訪れているわたしの家で、徹は勝手知ったるなんとやら。



「あれ、勉強してたの?」



ベッドにどかっと座り込みながら、机上に広げられたテキストやノートを見やる。



「これって、月曜提出のやつでしょ?もうやるの?」
「もうやるの?って…徹はやっておかないと。土曜から試合でしょ」
「あー…」
「月曜まで残るんだから。ちゃんとやんなよ」
「なまえに見せてもらうからいいよ」
「見せません。」



ひどい!なんていつもの調子で返されてしまい、ここ最近の冷たい態度に少しだけ罪悪感を覚えた。
今までハッキリと聞かなかったわたしも悪いのに、徹だけ悪者扱いするのはお門違い。



「ねえ、徹…」
「んー?」
「徹はさ」



わたしのこと、どう思ってるの?



これだけ聞けば済むことなのに、口が一向に開かない。



「なまえ、おいで」



こんな関係いけないのに、差し伸べられた手を拒めない。
そっと手を握れば、引き寄せられて優しく抱きしめられる。



「と、おる」
「よし!充電完了!じゃ、俺帰るね」
「え、あ…うん。気をつけてね」



聞けなかった。



「来てくれてありがとう」
「俺が勝手に気になったんだからさ」



自分勝手な男だと思っていながら、嫌いになれない自分。
彼女になれなくても、せめて傍にいたいなんて。
そんなのずるいよね。
徹が帰った後も、彼に触れられた場所が熱かった。



(2014.12.11.)

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