Dream

□Distance
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あのとき、どうすれば今とは違う未来があったのだろうか。

今も君が隣にいてくれたのだろうか。

後悔ばかりが募るのは、まだ気持ちが残っているから。



「なまえ〜!久しぶりっ!」

「ユウキ!久しぶり!!」



今日は卒業以来初めての同窓会。

成人式という節目に、同級生が一堂に会した。

ホテルで開催されることもあり、男子はスーツ、女子はパーティードレスに身を包んでいる。



「あ、バレー部」



ユウキの視線の先には長身の集団。

影山くんに山口くん、日向くんに谷地さん、そして月島くん。

高校時代、わたしがバレー部によく顔を出していたことを知っているユウキは、わたしの腕を引いてバレー部の面々が集まっているところへ連れて行こうとしたが、わたしはその場に踏みとどまる。



「…ユウキ、わたし」

「?」

「月島くんとは…あれ以来話してないから」



言葉を濁してしまったが、ユウキは察してくれたようだった。



「月島くんなんて、余所余所しい呼び方して」

「…」

「なまえ、今好きな人いるの?」

「…いない、かな」



進学クラスだったわたしは、県外の4年大に進学。

わたしの過去を知る人はもちろんおらず、普通に大学生活を送っている。

サークルにも入ったし、色々な人と知り合ったけれど、心惹かれる人とは出会えていない。



「なまえ、あんな別れ方したから踏ん切りつかないんじゃないの?」

「…そうなのかな」

「ちゃんと話しなよ」

「でも、向こうは今更話すことなんてないって思ってるかもしれないし」



わたしは手元のグラスに注がれたソフトドリンクに口をつける。

これ以上月島くんの話をしたくなかったから。

ちらりと月島くんを見やれば、あの時とかわらない長身に短髪。

少しだけ表情が大人びて見えるのは気のせいじゃない。

それだけ時間が経ったのだ。

月島くんと別れてから早2年。

だらだらと気持ちを引きずっていたわたしも、今となっては彼のことを思い出す時間も減ってきた。



「あー!!みょうじさんだー!!」



背後から大きな声で名前を呼ばれ、振り向けばこちらに大手を振る日向くんが目に入った。

日向くんがわたしに気付いたということは、月島くんも…。

わたしはグラスを持つ手にギュッと力を込め、振り向く。



「久しぶり」

「みょうじさん、県外だよな。宮城には結構帰ってきてんの!?」

「長期休暇のときはね」



バレー部員がぞろぞろと周りに集まって来た。



「なまえちゃん、キレー!!」

「谷地さんもかわいい。ワンピ、似合ってるね!」

「そそそそそんな!」



照れて、ワタワタと動いている彼女は昔と変わらない。



「…久しぶり」



日向くんや谷地さんと一通り再会の挨拶をかわし終えたとき、頭上から降って来たのは月島くんの声。



「…ひ、久しぶり」



気を使ってくれたのか、谷地さんが日向くんを連れて料理を取りに行った。



「元気?」

「うん。月島くんは?」

「まあ、それなりに。ていうか、月島くんって…」

「…ご、ごめん。でも、わたしたち…終わったのに、呼び捨ては馴れ馴れしいかなって」



あの日以来、言葉を交わしたのは初めて。

2年もの月日は、わたしたちを他人に戻すのに十分な時間だ。



「…じゃあ、みょうじさん」

「…」

「この後、ちょっと時間ある?」

「え?」

「送りがてら、話したいんだけど」



メガネの奥に見える表情からは、彼が何を考えているのか全く読み取れない。

わたしの返事を聞かずに、その場を立ち去ってしまった月島くんの後姿をボーっと見つめることしかできなかった。






「みょうじさん、行こう」

「…うん」



ユウキには先に事情を告げ、別の友人と帰ってもらうように頼んだ。

隣を黙って歩く月島くん。

右半身が妙に緊張してしまう。



「…話って、なに?」

「大学どう?」

「あ、うん。楽しいよ。…バレーのサークルに入ったんだ。」

「ふーん」



遥か頭上にある月島くんの顔。

彼が今どんな表情をしているのか、確認するのは少しだけ怖い。

どうして、わたしに声をかけたの?



「月島くんは?」

「まあ、ぼちぼち」

「そう」

「あのさ、月島くんってやめてくれない?」



え?



「前みたいに、蛍って呼びなよ。なまえ」



久しぶりに彼に名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。



「妙に余所余所しくて、なんか調子狂う」

「…ごめん」

「あのさ、あのときなんで僕から離れたの?」

「…」



避けていた話題を、躊躇いもなくその場に引き出した蛍。

わたしは目を見開いて、その後すぐに逸らした。



「遠恋なんかできないって話してるの聞いちゃって…」

「それで?」

「離れたとこにいるわたしより、そばにいてくれる子を探したほうがいいんじゃないかって」



わたしの言葉を聞いて、蛍は大きくため息をつく。



「バカなの?それで、携帯変えて連絡取れないようにして、自然消滅狙ってたわけ?信じられないんですけど」

「ごめんなさい」

「ほんと勝手だよね。」



本当に勝手だ。

自分が蛍から離れたくせに、その大きな手に、拾い背中に縋り付きたいなんて。



「いい迷惑だよ」



前を歩く蛍が振り向いたけれど、月の光の逆光で彼の表情は見えない。

今日の月は、明るいな…。



「僕、別れたつもりないのに、次に行けるわけないよね?」

「…」

「ほんと、次会ったらどしてやろうかと思ったけど」



怒ってる…。

確かに、携帯を変えて連絡を取れないようにするのは、一方的過ぎた。



「…やっぱり、なまえじゃなきゃだめなんだよ」

「…蛍」



次の瞬間、わたしの鼻をかすめたのは懐かしい匂い。

気づけば、蛍の胸に額がくっついている。



「…なまえ、全部許すから、戻ってきなよ」



背中に回された蛍の腕から伝わる温もりを感じながら、わたしはなんてことをしてしまったのだろうと後悔の念が押し寄せた。

この2年間、わたしだけではなく、蛍にも辛い思いをさせて。



「蛍…ごめんなさい」



わたしが泣くのはずるいとわかっているのに、止まらない。



「ごめん」

「お詫びはちゃんとしてもらうから。」

「え?」



その日、わたしは自宅に帰宅することはなく、2年の間を埋めるかのように蛍と過ごした。

明後日からは大学にでなければならない。

こんなに短い時間じゃ、埋められないよ。



「…テスト終わったら、そっちに行く」

「え?」

「行くから」



わたしには、蛍がいなきゃだめだ。

この2年はわたしにそのことを思い知らせる期間だった。



「うん。待ってる!」

「男連れ込んでたりしたら、ほんと知らないからね?」

「そんな人いないよ!」



わたしには、蛍だけ。



(2015.5.16.)

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