Dream

□Happy Birthday
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12月22日。

今日は風が強いせいで、吹雪いている。

そんな天候でも、室内スポーツのバレー部はいつも通り練習。




(部活終わるまで待ってるね)

(寒いぞ)

(待ってる。校門で待ち合わせね)




今日が特別な日だって、ちゃんとわかってるよね?

丁度良い時間まで図書館で時間を潰して、校門へと向かえば、先に彼はそこにいた。




「待たせたな」

「飛雄くん、おつかれさま」

「さみー…」

「帰ろ!」




わたしが横目で彼をちらりと見ると、目が合う。

怪訝そうな顔で視線を返されたが、目をそらして誤魔化した。

飛雄くんの首が寒そうに学ランの詰襟の中に少し消える。




「バス、遅いね」

「雪で遅れてんだろ」

「あ、あのね、誕生日おめでとう!」




ほんとは家に着いてから言おうって思ってたけど。

でも、早く誕生日プレゼントを渡したくて。

彼の寒そうな首をなんとかしてあげたくて。




「これね、似合うかなーと思って…寒いから、使ってね」

「…」




自分より20cm以上も背の高い飛雄くんの首にマフラーをなんとかかける。

わたしと同じように、シングルループ巻きをしてみると、なんだか違和感。

この巻き方はどう見ても、及川先輩だな。

うーん、と少し考えて、巻き治そうとマフラーに手をかけたけれど、それは制止されてしまった。




「なんか、飛雄くんはこの巻き方じゃない気がする」

「…いいんだよ」

「なんか、及川先輩みたいになってる」

「……いい」




納得がいかなくて、じーっと見つめてみたけれど飛雄くんは巻き方を変えなかった。




「…サンキュ」




マフラーに顔をうずめて、小さくそう呟く飛雄くん。

わたしはそれを聞き逃さず、どういたしましてと返した。




「あったかい?」

「ああ」

「良かった!」




そうしている内に、バスが1台やってきて、わたしたちは一緒にそれに乗り込んだ。




「…おまえ、まだ及川さんと連絡取ってんのか?」

「うん。たまに電話かかってくるから」

「…出なくていいのに」




思ったことを素直に口に出しすぎな彼に苦笑。




「…及川先輩、いい人だよ?」

「…おまえは、もっと危機感持ったほうがいいんじゃねーの」

「なにそれ」

「あの人、まだなまえのこと…」




中学に入学したころから、及川先輩には告白をされ続けてきた。

だけど、それはからかうような軽いもので、飛雄くんが心配するようなことはなにもない。




「わたしは、飛雄くんが好きなんだよ」

「…」

「生まれてきてくれて、ありがとう」

「!」




顔を赤くして、そっぽを向く飛雄くんがなんだか可愛くて笑ってしまった。




「降りるぞ」

「うん」




バスを降りれば、見慣れた地元。

バス停から少し歩いたところにあるコンビニには、見慣れた影が2つ。




「なまえちゃん!」

「ゲ…」




噂をすればなんとやら。

及川先輩の登場に、あからさまに嫌な顔をした飛雄くん。




「影山、みょうじ、久々だな」

「岩泉さん…お疲れっす」

「こんばんは」

「2人、まだ別れてないのー?」




そんなことを言う及川先輩を見れば、やっぱり、飛雄くんと同じマフラーの巻き方をしている。

飛雄くんもそれに気づいたようで、さっとマフラーを外すと、首にグルっと一周させ後ろで端を結んだ。

ああ、そっちの方が飛雄くんっぽいな。




「別れないっすよ」

「なまえちゃん、こんな不愛想な奴やめて俺にしなよ」

「また及川先輩はすぐそうやって…」

「及川、帰るぞ。さみーよ」

「えー、まだなまえちゃんと話すー」




わたしの腕を掴んだ及川先輩。

その瞬間、飛雄くんの纏う空気が少し変わったような気がした。




「…なまえは今から俺ん家来るんで。じゃあ」




先輩につかまれた腕とは反対の腕を引いて、飛雄くんは歩き出す。




「し、失礼します!」




ズンズンと歩みを進める飛雄くんのペースについていくのがやっとで、少し息が切れてくる。




「と、飛雄くん、ちょっと早い…!」

「…あ、わ、悪い」

「どうしたの?」

「何が?」

「及川先輩のこと…そんなに嫌い?」




わたしの問いかけに、飛雄くんは驚いたように目を見開くと、少しずつ言葉を紡いでいく。




「別に、嫌い、じゃない」

「あれ、そうなの?」

「及川さんのことは尊敬してる。すげぇセッターだ」




じゃあ、どうしていつもあんな態度を取るの?




「及川さんを追い越したいって、いつも思う。」

「ライバル?」

「…なまえのことも、絶対、渡さねえ」

「大丈夫だよ。」



わたしには、飛雄くんだけだもん。



「おまえは、おれの…だろ?」
「うん」



飛雄くんのマフラーをぐいっと引っ張って、顔を近づけると、一瞬だけ触れた唇。



「飛雄くんも、わたしだけのものだよ?」
「…おぉ…」



唇を隠して少し恥ずかしそうな飛雄くんを、いつまでも眺めていたい。
そんなことを思いながら、彼の家までの道を歩いた。



(2015.01.08.)

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