Dream

□君のそばで
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「俺、みょうじのこと好きなんだ」



突然のことに驚いて、わたしは返事をすることなくその場を走り出した。
決して、彼の告白が嫌だったというわけではない。
むしろ、嬉しかったのに。



「なんで、逃げちゃったの」



彼は、きっと勇気を出して気持ちを伝えてくれたのに、わたしの対応は真摯じゃなかった。
明日、きちんと返事をしなければ。



いつもより早く校門をくぐれば、体育館からボールを床に叩きつける音が聞こえてきた。



「おりゃー!」
「日向ボゲェ!」
「おい、おまえらいい加減やめろ!」
「朝から元気だなー」



彼の声がする。
いつもと同じ優しい声。
体育館の重い扉を、なるべく音をたてないようにスライドさせたけれど、ギギッと予想以上に大きな音が響いた。
中からは、驚いた表情でこちらを見やる4人。



「みょうじ?」
「す、菅原くん…あの、」
「おはよう」
「おはよ、あのね、」



顔が見られない。



「菅原さんのお知り合いっすか!?」
「田中!ちょっと黙ってろ」



ニコニコ笑顔で、ちょっときつい言葉。
だけど、田中と呼ばれる男の子はハッ!と敬礼をしてニヤニヤしながら黙る。



「どうした?」
「あの、話が…練習終わってからでいいから」
「ちょっと出ようか。おまえら、ちやんと仲良く練習してろよー」



緊張して、上手く言葉が出てこない。
まず謝らないと。



「き、昨日はごめんなさい」
「あぁ、いいんだ」
「あのね」
「こっちこそ、ごめんな。びっくりさせたよな」



少し声のトーンが下がったように感じた。
菅原くんは、いつも明るくて優しい笑顔で、そんな彼が好きだった。
だけど、菅原くんだって一人の人間だ。
落ち込んで元気がないこともあれば、怒ることだってある。



「嫌なら断ってくれていいから」
「え?」
「ただ、今まで見たいに友達でいてくれたら、嬉しいよ」
「やだよっ!」



そんなの、嫌。
今日初めて、彼の顔をきちんと見た。
驚いて、そして、困惑、最後に悲しそうな顔をする菅原くんが隣りにいた。



「やだ…って、俺嫌われちゃったかー」
「違うの」
「え?」



ちゃんと言わなきゃ、
伝わらない。



「わたしも、菅原くんのこと好き」



心臓が生きてきた中で一番と言ってもいいほど働いていた。
息苦しくて、だけど、気分は悪くない。



「みょうじ、それほんと?」
「ほ、ほんと…」
「じゃあ、俺と付き合ってくれる?」
「…うん。お願いします」



深呼吸をして気持ちを落ち着けようとしたけれど、右手に触れた菅原くんの手がそれを許してはくれなかった。



「昨日告白してくれたとき、嬉しくて…わたしのこと好きでいてくれたなんて思いもしなかったから…びっくりして」
「あぁ、そうなんだ」
「ごめんね」
「いいよ。終わりよければ…ってね」



ギュッと握った2人の手を目の前に運んで、菅原くんは私の大好きな笑顔を浮かべてよろしくと一言。



「こちらこ…」
「あー!!スガさんが!!」
「美女と手繋いでる!!」



背後から突如聞こえた大きな声にわたしは、身体をビクつかせる。



「…おまえら、」
「「ひっ!」」
「練習してろ、って俺言わなかったか?」
「すすすすす、すんません!」
「…じゃあ、俺体育館戻るな。また、教室で」
「うん。がんばってね」



これから、菅原くんの一番近くで、彼のいろいろな表情を見て、彼をたくさん知っていくんだな。
くすぐったいようなその気持ちに、わたしはウキウキしながら校舎へと向かった。



(2015.01.08.)

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